12話
慣れない家からの通学。早めに出たものの、道を間違えたりして、到着が遅くなった。
生活指導の先生が、校門を閉じようとしている。
「ちょっ! ちょっと待って下さい!」
そんなあたしの叫び声に、先生はびくりと反応する。
「なんだ、雉子島か。遅刻ギリギリなんてめずらしいな? まあ、今度から気をつけてな」
「すみません! 体調が悪かったものですので!」
言い訳をしつつ、閉じかけの校門から、校庭に入る。そして、校門は閉じられた。
(セーフ! 姫輝の評判を落としたら、怒られそうだ。主にご両親から……)
安堵しつつ、教室へと向かう。
教室のドアも既にしまっている。もう担任の先生が来てしまっているのかと、冷や汗を垂らしつつ、こっそりとドアの小窓から覗く。やはり担任の先生は来ていた。
何か言われることを覚悟し、ドアを勢いよく開けて、開口一言。
「遅れました! おはようございます!」
「「「……」」」
その言葉に、教室内は静まった。なんだこの反応。
「雉子島、お前、教室を間違えているぞ?」
一瞬、ぽかんとしていた先生が、笑い出した。それに釣られて、教室内は所々から笑い声が聞こえてきた。
(教室間違えた! 恥ずかしい!)
恥ずかしさで顔を俯かせ気味にすると、視界にはわなわなと涙ぐみながら震える、姫輝の姿が見えた。
(あっ! やばっ! 本人にも見られた)
あたしはその場の居たたまれない雰囲気から逃げる。
「すみません! 間違えました!」
慌ててドアを閉めたが、なかったことにはできないだろうな……。
あたしは本来行くべき教室である、一年二組の教室へとがむしゃらに廊下を走った。
二組の教室に辿り着くと、やはり教室のドアはしまっている。
こちらも先生がもう来たのか。そう観念しつつ、ドアの小窓から覗き込むが、先生は来ていないようだ。
ほっとしてドアを開けて教室内に入る。
「「「雉子島さん、おはようございます」」」
何人かの生徒に挨拶をされた。その目はまるで崇拝しているかのようだ。あたしは相手の元気の良さに怯む。
「お、おはよう」
そして、席につくと、姫輝のクラスメイトが何人か寄ってきて、話しかけてくる。
「今日は雉子島さん、遅かったですね? 体調が優れないのですか? 大丈夫です?」
ここで、イベントの選択肢に迷う。
一つ目は馬鹿正直に『たまたま寝坊しちゃって』ということ。いや、これは馬鹿正直とは言わないか。実際は道に迷って戸惑っていたのだから……。言い訳の常套手段という意味合いで。
二つ目は、みんなが聞いてくるように『体調がすぐれなかった』とすること。だが、これは今後も使う羽目になりそうだ。
選ぶべきは一つ目だな。
「ええ、めずらしくアラームをつけ忘れてしまいまして……」
そういうことにしておく。今日のミスで道は覚えた。また使うことはないだろうしね。
「そうなんですね。雉子島さんでもミスをするなんてめずらしいですね」
その言葉に、ぎくりとする。そんなにパーフェクト人間なのか? 朝はアラームどころか、『に~に』と呼んでいる人に起こされていたんだが……あれは毎朝あんな感じなのか?
言い訳をした後も話しかけられる。
ボロが出るとまずいので、「早く先生きて!」と、心の中で祈る。
その祈りが通じたのか、姫輝の担任の先生が来て、ホームルームが始まった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
梨琴がやらかしたました!
さて、読者さんが同じ立場なら、間違えなかったでしょうか?
朝、寝坊して慌てていたのですよ?
習慣化している教室に行ってしまうのではないでしょうか?
作者は……どうでしょう?
間違えないような、間違えそうな。現実に入れ替わりが起こらないと、分からないですね(笑)。
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