10話
食事を終えると、あたしは食器を洗う。
悠橙先輩が洗うと言ってくれたのだが、あたしも何かをしないと、罪悪感に駆られる。
食器を洗うと言っても、『食洗器』という神器がこの家にはあるのだが……。
でも、正直、食洗器の使い方は分からないので、スポンジでチマチマと洗った。
そんなあたしを見る、悠橙先輩の視線が痛い。
脂汗がだらだらと垂れてくる。
(絶対におかしいと思われている! 姫輝め!)
そこまで考えて、ふと思う。
これだけあたしが姫輝を演じることにギャップがあるのなら、姫輝はあたしのフリをしても、かなりヤバいんじゃないだろうか?
そんなことを考えつつ、食器洗いを終えて、洗った食器は水切りに置いた。
用事を終えたあたしも、ソファーに座る。悠橙先輩の向かいに。
そんなあたしを心配そうな眼差しで見ると、あたしの隣に座ってきた。
「姫輝……本当にどうしたんだ? いつもは、俺の隣来て膝枕で寝るじゃないか……」
寂しそうな目。ってか、あの女! そこまでの甘えん坊なのか!
そう思っていると、悠橙先輩が、あたしの前髪を上げて、おでことおでこをくっつけた。
「熱は……ないみたいだな……ってどうした? 急に熱が上がってきたぞ!?」
あたしは顔はみるみるうちに真っ赤になり、熱を帯びた。
テンパりながら、両手で悠橙先輩を押し退ける。
「な、なんでもない! 大丈夫だから!」
あまりの兄妹のバグった距離感に、あたしは狼狽えつつ、姫輝の部屋へと戻った。
ベッドに寝転び考える。
(もしかして……姫輝と悠橙先輩って、ブラコンとシスコン!?)
そんな考えがよぎったが、それならこの際、悠橙先輩には、シスコンを卒業してもらおうじゃないか。じゃないとね、あたしと結婚してからも姫輝が優先されるのは、許されんよ。
今後、姫輝となっているあたしは、甘えないことに決めた……ようと思ったんだけど、ちょっとは甘えていいよね?
自分に甘いあたしは、この生活で余計にダメ人間になりそうな予感がした。
いつも読んで頂きありがとうございます。
ちょっと面白おかしくしたいと思ったら、悠橙先輩もシスコンになってしまった……。
よ、予定とは違うけど、面白そうだからいいですよね?