9話
「じゃあ、ちょっと着替えてくるな。姫輝も着替えて来いよ」
そういうと、悠橙先輩は自室へと向かった。
あたしも姫輝の部屋に戻り、着替えを探す。だが、スエットのようにラフな服が見当たらない。
(姫輝の室内着はどれだ?)
探してみるも、それらしきものは見当たらない。
え? 全部余所行き?
仕方がないので、その中で一番地味そうなものを選んで着替えた。
(これでまたおかしいとか言われないかな……?)
不安に思いつつも部屋から出て、キッチンへと向かう。
悠橙先輩はまだ来ていないようだ。服選びに迷ったあたしよりも時間がかかっている。
先ほど、玄関で靴をきっちりと揃えるあたり、荷物もきちんと片付けてから来る習慣なのかもしれない。
悠橙先輩の新たな一面を垣間見た気がする。
その間、あたしはというと……料理をするらしいので、とりあえず冷蔵庫の中を覗く。
新鮮そうな食材たちが、お行儀よく並んでいる。思わずチルド室の引き出しを開けてみる。
そこにはなんと国産黒毛和牛のお高いステーキ肉があった。
目の錯覚ではないかと、目を擦るが、紛れもなく今までに食べたことのないお肉!
期待に胸を膨らませていると、悠橙先輩が私服に着替えて戻ってきた。
室内着と言えどもおしゃれである。あたしなんて「室内だし着れればいいや」で今まで着ていた。
「今日はラタトゥイユにしようか」
聞きなれない呪文の言葉が出てきた。なにそれ?
悠橙先輩は、食材を出している。そこに黒毛和牛の姿はなかった。その状況にがっくりと肩を落としていると、悠橙先輩に声をかけられる。
「姫輝? 何、ぼーっとしているんだ?」
叱りつけるというのではなく、優しく心配してくれる。
(そんな悠橙先輩が好きだ~!!)
そう心の中で叫んだ。
「い、いえ、なんか最近具合悪いみたいですわ」
今後の展開を考えて、『今限定』ではなく『最近』にしておいた。
悠橙先輩は、じっとあたしを見つめる。
その熱い視線に頬がポッと熱くなる。
「なんか口調もいつもと違うし、本当にどうしたんだ? 少しそこのソファーにでも横になっていたらどうだ?」
口調が違う? 『に~に』発言と言い、姫輝は自分の家では家族にどういう態度を取っているんだ?
「じゃあ、お言葉に甘えて」
日頃の姫輝の家族への接し方が分からない。これは明日にでも大至急、問い詰めないといけない。もちろん『に~に』の件を茶化しつつ。
ソファーに寝転び、悠橙先輩こと、に~にの料理する姿を見つめる。
エプロン姿が様になっている。
(料理できる男の人って最高! 女が料理するのが当たり前と思ってないみたいだし、いい結婚生活を送れそうだなぁ~)
結婚前提で、妄想を繰り広げていると、ラタトゥイユとやらができたらしい。
「姫輝。具合はどうだ? 夕食、食べれそうか?」
「うん、に~に」
もう口調は甘えん坊の姫輝ということにして、そのまま悠橙先輩に甘える生活を送ると決めた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
不定期で書いているので、物語の整合性に不安があります。
いつも通り、生暖かい目で見守って下さい。
応援や感想をお待ちしております。