プロローグ
・藪垣梨琴
・雉子島姫輝
・雉子島悠橙
あたしは放課後、階段の下を通りがかった。
「わっ! わっ! どいて下さいませ!」
そんな悲鳴が聞こえてきて、私はその方向に顔を向けた。
目の前には、女子生徒の顔が迫ってきていた。
そして、頭に衝撃を受けた。
「お……て……下さい! 起きて下さい!」
身体を揺すられて目を覚ます。
目を開くと、目の前にはあたしがいた。
「ほえ? なんで目の前にあたしがいるの……?」
まだ意識がはっきりとしない状態で、疑問を投げかけた。
その問いは衝撃的なものだった。
「私と身体が入れ替わってしまったんですよ!」
涙目のあたし。いや、話からすると別人か。そこでようやく頭の中がクリアになる。
あたしは驚きのあまり、勢いよく上体を起こす。そして、夢であることを願うように、目の前のあたしの頬を引っ張る。
「い、痛いですわ! そういう時は自分の頬をつねるんですよ!」
そう言われて、自分の頬をつねる。痛い。
あたしは今の自分の身体のあちこちを確認する。
不幸中の幸いか、大きな怪我はしていない。白魚のように綺麗な手足をしている。
目の前のあたしは、突然あたしの腕を掴み、女子トイレに引き摺って行った。
「見て下さいませ! 身体が入れ替わっているんですよ!」
「……え? 雉子島姫輝さんの身体じゃん……」
鏡を見つめると、中にはこの学年で一番美少女と呼ばれている女子生徒が映し出されていた。
「私のことをご存じなのですか?」
「え、ええ、まあ……有名ですから」
「有名? そんなことは知りませんが、貴女のお名前は?」
所詮あたしはモブだよ。心の中で自嘲した。
「あたしの名前は、藪垣梨琴です」
「ええっと藪垣さん。……なんか私の身体に話しかけているから調子狂いますわね……。それはともかく! 身体を元に戻しましょう!」
頭の中が真っ白になる。どうやって? そもそもなんでこうなった?
あたしは、事が起こる前を思い出そうと考える。
そういえば、雉子島さんが階段から落ちてきた。そして現在、頭が痛い。鏡を再び覗き込むと、少し赤く腫れあがって、たんこぶができていた。
そこで元に戻る方法の結論に至る。
「無理無理無理! かなり痛かったもん! 今も痛いもん! こういうのって、またお互いに頭をぶつけ合おうって話でしょ?」
あたしは、痛むおでこをさする。そんなあたしを見て、あたしの身体に入っている雉子島さんも痛そうにおでこを押さえる。彼女はおでこを擦った後、ため息をついた。
「はぁ~、まあそうですよね。頭をぶつけるなんて危ないですわよね……」
しょんぼりとしてしまった彼女を、元気づける。
「ほ、ほら。無理に頭をぶつけなくても、自然に治るかもしれないし!」
そういうと、彼女はあたしを見つめた。
「そうですわね。では仕方がありません。しばらく入れ替わって生活をしましょう。幸いなことに、藪垣さんのリボンも黄色ってことは、同じ一年生ですよね?」
「そうだけど……入れ替わって生活とは?」
雉子島さんが眉間にしわを寄せている。いや、目の前にいるあたしがなんだが……ややこしいわ!
そんな彼女が説明してくる。
「藪垣さんには、私の家や学校で、雉子島姫輝として生活してもらいます。もちろんその間は、私は藪垣さんとして、家や学校で生活しますわ。あ! すみません。下のお名前はなんていうのでしょうか?」
「梨琴だよ。藪垣梨琴」
自己紹介すると、雉子島さんは、何やら考え込んだ。そして、なんかとんでもないことを言い出した。
「では、荷物も入れ替えましょう」
「え? 荷物?」
彼女はこくりと頷く。
「そうですわ。全荷物です」
「それってスマホも?」
「そうですわね。繋がりのある人間がいるでしょうから、スマホも入れ替えですわね」
「ちょっと待った~!!」
あたしの大声に、雉子島さんの身体がびくりと反応した。
「ど、どうしました?」
あたしは考える。実はスマホの写真フォルダの中に、好きな人を隠し撮りした画像がある。ちなみに誰かというと、雉子島さんの兄である、悠橙先輩である。
「……えっと……スマホとかは、お互いのプライバシーを守ろうよ……」
雉子島さんは、あたしの慌てぶりを見て、くすっと笑う。
「そうですわね。藪垣さんの好きな人の写真とか、見られたら困るでしょうしね」
図星だ。流石、一年生の中で成績トップを維持しているだけはある。
そこで飛んでもない問題点に気づいた。
「ちょっ! 雉子島さん!」
「はい? ああ、これからつじつま合わせとかの為に、接点が増えるでしょうから、『姫輝』と呼んで下さっていいですわよ。もちろん表向きは梨琴と呼んで下さいね」
あたしは話の腰を折られて、ついそのことに返事をしてしまう。
「あ、うん、じゃあ、あたしのことも『梨琴』でいいから……って、今したかったのはその話じゃなくて、姫輝は学年一位の成績じゃん! 授業中や試験の時に、絶対ボロが出るって!」
姫輝は頬に手を添え、首を傾げている。
「そんなに難しい問題でないですから、大丈夫じゃないですかね?」
「いやっ! それは姫輝の場合ね!?」
読んで頂きありがとうございます。
こちらの作品は、公募に出す予定の作品ですが、練習がてらに書くので、五万文字程度(中編)のボリュームを目指して書きます。
良さそうな内容になりましたら、十万文字まで膨らませようと考えています。
投稿は進捗次第なので、不定期とさせて頂きます。