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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】
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8  未来への計画 1



「こんなに沢山食べきれないわ」

「ウィステリアが御土産はチョコレートが良いって言ったから、好きなんだと思って沢山買ってきたんだ」

「だからって、買いすぎよ。それと、呼び捨てにしても良いって、私は言っていないわ」

「皆で分けて食べればいいだけだろう」

「えっ? 分けてもいいの?」

「えっ? ウィステリアは一人で食べるつもりだったのか?」

「だーかーらー、呼び捨てにしないで」

「じゃぁ、なんて呼べば良いんだ?」

「し、知らないわ!」


 ……子供の頃のルーフェルムって、こんな感じだったの? その辺にいる男の子達と何ら変わらないじゃない。

 昨日は考えている余裕も無かったけど、もっとこう……口数も少なく会話にならないような、目がイッちゃっててこの人ヤバイなぁーって感じをイメージしていたんだけど。

 それに、お土産のチョコレートだってたくさん買って来て、『皆で分けて食べれば……』だなんて、サイコ野郎がそんな気遣いできるはずないじゃない? 小説の中のルーフェルムからは全く想像できない、ごくごく普通なんですけど? 逆に話しやすいし、優しくないか?



 

「あらあら、仲良しさんね」

「母様。ルーフェルム様がわたくしを呼び捨てで呼ぶので、注意していただけですわ」


 昨日、王宮で開かれた茶会でバードゥイン公爵夫人が言っていたとおり、夫人とルーフェルムは昼過ぎに我が家へとやってきた。


 応接室で両親と夫人が婚約の話をしている間、二人は親睦を深めるようにと庭園の四阿に追い出されたのだ。

 そんな二人の様子を母様は自らの目で確かめにきたのだろう。


「それなら、ウィラと呼んで上げてくださいね」

「えっ! 家族じゃないのに?」

「どうせ先の未来で家族になるのですから、今から愛称で呼び合えばいいでしょう?」

「あ、俺は……名前以外の呼び方をされたことがありません」

「……じゃぁ、わたくしはルーフェルム様とお呼びいたしますわ」

「うん。俺は……ウィ、ウィラと呼ぶよ」


 な、なんだ? この可愛らしい生き物は?

 平気で呼び捨てするくせに、愛称を呼ぶとなると顔を赤らめ恥ずかしそうにもじもじと……。クールビューティの美しい顔が、モジ男になるとギャップが凄すぎ。目茶苦茶可愛らしいワンコになった。


(……か、飼いたい)


 いやいや、ルーフェルムだよ? 将来はサイコ野郎だよ? でも、小説とは違って婚約者となった訳だし。もしかしたら、成長する過程が違えば……サイコパスにならないのかも知れないわ。それなら、子供のうちからなら、飼い慣らせるかも。そうよ! サイコ野郎にならないように躾ければ……いっそのこと飼い慣らせばいいんじゃない!


(ふ・ふ・ふ……名案だわ!)


「……ルーフェルム様。もう一度、ウィラと呼んで下さいますか」

「えっ、うん。……ウィラ」

「素晴らしいわ! これからはウィラと呼んで下さい。家族以外ではルーフェルム様だけ特別に許しますわ」

「お、俺だけ……特別……」

「そうですわ」


 隣では珍しく、侯爵夫人手ずからお茶を淹れていた母様がカップをテーブルの上に置くと、ルーフェルムはお礼を告げて一気に飲み干した。


「ウィステリア。ルーフェルム様の婚約者となることで、母様から伝えることがあるわ」


 そう言って、目の前に母様が用意したポットを置く。


「これからは、メイドではなく自らお茶を淹れられるようになりましょう。ルーフェルム様は、知らない者が淹れた飲み物を口に出来ないのですわ」

「……どうしてですか?」

「それほど高貴な御方だからです」

「違います。俺から話します。怖がられたくなくて、言い辛いけど。毒を摂取しないようにだから……気にしなくていいから」


(……毒か)


 ……そうね。毒を盛られ苦しんだ後で復讐とか……サイコの原因となることは、できるだけ取り除かないといけないわね。それに、私がお茶を淹れる……これって、餌付けと一緒じゃないかしら?


(ふ・ふ・ふ……飼い慣らすには餌付けは欠かせないわね)


「分かりました。次にお会いする日までには、必ず覚えますわ。お湯を沸かし、使用するカップを洗い、淹れたお茶の毒見までを完璧にしてみせます」

「そ、そこまでは――」

「まぁ。ウィステリアったら、素晴らしいわ。流石わたくしの娘です」

「ウィラは、俺との婚約が嫌々だと思っていたんだけど。嫌じゃないのか?」

「分かっていたのに婚約者にしたの?」

「俺はウィラがいいって……ウィラしかいないって、思って」

「私の何処がいいの?」

「……す、全てがいい」

「あらあら、母様はお邪魔虫みたいなので戻るわね」


 口に手を当て、「ふふふ」と微笑むと、母様は私達を交互に見た後で去っていった。


 はっとした時には、向き合っている顔は真っ赤に腫れ上がっていて、ルーフェルムの茹でダコよりも、私の方が勝っているだろうと見なくても分かる。俯いて顔を隠したからといって既に遅い。……聞くんじゃなかった。こんなの、反則だ。


(まずいわ。これじゃ、逆に私が飼い慣らされちゃう側じゃないか?)


 深呼吸を繰り返し火照りを鎮めると、俯いていた顔を上げ目の前の美しい彼を見据える。


「……。わ、私は、今は嫌じゃないわ。婚約者になったのだから、相手を大事に思うこと、それと嫌がることはしないこと。でも、私達はまだ子供だから完璧には無理だと思うわ。だから、悪いことをしてしまったら謝ること。それを約束してくれる?」

「分かった。じゃぁ、俺からも。家族と俺以外には触らせないこと……あっ、挨拶以外では――」

「わ、分かったわ。でも、避けられなかったときは許してね」

「うん。そのときは、きちんと言ってくれれば許す」


 なんなんだ? この甘ーい雰囲気は。『家族と俺以外には触らせないこと』って、どうしてそんなにデレデレなことを? ダメよ、ダメー、騙されちゃダメよ、私。……こんなの怪しすぎるでしょう。

 こういう展開の裏には絶対何かあるはず。忘れてはいけない……だってここは、あの胸糞悪い小説の世界なのだ。気を引き締めなければ……そう、私の先の未来には死が待っているのだ――。




 

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