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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】
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4  茶会での出会い 1



 それは私が初めて、この国ガウスザルド国の王城へと連れて行かれた日のこと。

 母様は6歳になったばかりの私を連れて、王宮で開かれた王子様の婚約者候補を決める茶会へと参加した。


 小説の中で、この茶会の席にて第二王子殿下の婚約者候補となることを思い出した私は母様の前で、「行きたくなーい! 絶対に行かなーい!」と全身を使ってダダをこねてみたんだけど、駄目で……頑張って泣き真似も披露したんだけど、無駄な足掻きで……結局は、無理矢理連れて来られた。


 茶会の席では、本日の主役となる三人の王子様が『ザ、王子』と言いたくなる綺羅びやかな衣装を纏っていた。

 王族ならではの金髪碧眼の彼らは、爽やかな美男子である10歳のファビレック第一王子殿下に続いて、賢そうな6歳のレイバラム第二王子殿下、最後に可愛らしくまだ幼さが残っている5歳のリグレント第三王子殿下が訪問客に次々と挨拶をしている。

 そして、この場には側近候補となる上位貴族の令息達の姿も見受けられた。


 母様と一緒に一通り挨拶を終えると、私はその場から素早く離れ、彼らから一番離れたテーブルに腰を下ろした。

 侯爵家の令嬢である私の座る場所は、王子達の直ぐ目の前にあるテーブルだと母様に言われていたのだが……自ら小説と同じ場所に座りたくはなくて。


 でも、無駄な努力だった。それに気づいた母様に、連れ戻されたのだ。

 手を引き無理矢理腰を上げさせられると、母様を睨みつけ小さな抵抗をしてみたが、所詮6歳児だ。母様の目力の方が強かった。


 ブーブー心の中で呟きながら移動し、とりあえず席に座る。すると、目の前のテーブルから王子達がにこやかな笑みを浮かべこちらに視線を向けていた。

 内心では何を考えているのやら? そう思いながらレイバラム第二王子殿下をチラリと視界に捉える。口では笑っていても、前髪の隙間から見える碧い目は私を見定めているかのようだ。

 

(……どうにか逃げなくちゃ)


 この場に参加している令嬢たちは、ちゃんと見ているの? あの如何にも作り笑いですという顔を見て、なぜ頬を染める? 王子たちのどこをどう見ても、あれは絶対に『この場にいるのが面倒くせー』としか思っていない顔だというのに。

 どっちみち、婚約者候補はほぼ確定していての茶会のはずだし。こんな茶番に、わざわざ着飾ってくる事自体が無意味だと思う。まぁ、私もその中の一人だけど。


 彼らの作られた笑みを横目にすると、私は貝になることにした。

 必要なこと以外は口を閉ざし、自分からは喋らない。恥ずかしくないけど俯いて、目立たぬように努める。

 一秒でも長く彼らの視界に入らないようにするには……うん。これしかないわ。


 そうして、どうにかその場を切り抜けお茶会も終わりに差しかかった頃。メイド達がそわそわしだすと、王子様たちが一斉に席を立った。


 ……そろそろ、自ら婚約者候補とする令嬢の名を告げるという場面が始まるのだろうか?

 小説の内容では、王子様達と年齢が近い公爵家の令嬢が一人もいないために、本日参加した侯爵令嬢の3人は必然的に婚約者候補として名が挙げられていた。

 そんな事を考えていれば、王妃様の座るテーブルで一緒に談笑していた母様から呼ばれ、私は席を立つと母様の下へ行く。


「先日、6歳になったばかりのウィステリアですわ」

「はじめまして、ウィステリアと申します」


 母様に紹介され、テーブルにいる皆さんに挨拶をする。すると、最初に挨拶を返してきたのは、とても可愛らしい少女のような方だった。


「素敵なレディね。うちの子が気に入るはずだわ。わたくしは、アイリス・バードゥインと申します」


 ……バードゥイン? バードゥインっていったらルーフェルムの……お母さん? ……ってことは、小説では私の義母様だったってこと?


「ウィステリア、アイリス様はバードゥイン公爵夫人ですわ」


 そう母様が補足したので、間違いないと確信する。


「うちの子がウィステリアちゃんと婚約を結びたいって言うのよ。ウィステリアちゃんは、うちの子を気に入ってくれるかしら……」


(えっ? 婚約を結びたい?)


 なんですって? 誰が誰と婚約を結ぶって話? っていうか、私とってこと? 今の言葉に頭の中が真っ白になる。


 だって、私は第二王子の婚約者候補に選ばれるのよ? 王子様たちの婚約者候補を発表しようという今この場で筆頭公爵家の夫人がそれを言っちゃうの?


 私は、恐る恐るテーブルを見回す。すると、皆さん揃ってにこにこと微笑みながらこちらを見ているのだが、仮面を貼り付けたような笑顔に背中がゾクリとする。

 それを承知の上でなのだろうけど、母様とバードゥイン公爵夫人は、満面の笑みを浮かべていた。


 小説でのこの日から続いていく未来では、私は今から第二王子の婚約者候補に選ばれ、その後で婚約者となるはずなのだ。そして、婚約者となってから6年後に婚約を破棄されるという残念な未来が待っていて……。

 婚約が破棄された理由は、王立学院の卒業式目前に事件に巻き込まれたためで。その場で、バードゥイン公爵家に嫁ぐよう命じられるの。


 それなのに……どうして、今?

 ……そもそも、ウィステリア視点での子供の頃の話なんて書かれていなかった。

 書かれていない事を考えたところでだと思うけど……まさかルーフェルムとウィステリアが初めて出会ったのは、この茶会でだったのだろうか――。





「あっ、来たわ。ウィステリアちゃん、うちの子よっ!」


 そう言われ振り返ると、後方から歩いてくる男の子に目が奪われる。


 なんて神秘的で美しい男の子なのだろう。先ほどまで見ていた三人の王子様たちなんかとは比べるまでもない。これほど素晴らしい外見をしているということは……まさしく、彼だ――。

 黒に近い碧色の髪の隙間から見える銀色の瞳に心拍数が跳ね上がる。


 子供時代から、こんなに美しいだなんて。

 ……うーん、眼福だわ。

 ……………はっ!

 違う、違う! わ、私ってば見惚れている場合じゃないでしょー!

 ちょっと待って。いやいや、ちょっとじゃないよね。いくらなんでも、早過ぎるでしょう。心の準備もしていないまま、こんな展開になるなんて……。

 に、逃げたい。あっ、名案かも。子供だから逃げたところで許されそうだし。それでいこう。よし、逃げてみるか。


 右足を後ろに一歩引いたところで、彼は私に一歩近づく。そして、左足をまた一歩引いたところで振り切って逃げる体勢を整える。


「あっ!」


 突然上空を指差して空を見上げた彼に釣られ、私の視線が上を向く。


 その隙に一瞬で手を握られ、ハッとした私が彼に視線を戻す。


「逃げんな!」


 視線が重なり彼から言われた言葉にビクッと体が反応すると、次に彼が見せた表情に私は目を大きく見開き「ヒィッー」と一気に息を吸い込んだ。


 ……ち、近ーい! すぐ目の前にある美しく整った顔がニヤリと歪み銀色の瞳が私を捉えて離さない。近すぎる彼の丸い瞳孔が縦長に変わったのは気の所為だろうか。


 その姿があまりに怖くて、全身がぶるぶる震え出すと同時に体温がサァーと一気に下がっていくのが分かる。

 そして、私は恐怖のあまり目を見開いたままその場で倒れた――。





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