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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】
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47 夏季休暇 2

お読み下さりありがとうございます。

誤字脱字がありましたらごめんなさい。


次話の投稿が遅れます。ご迷惑お掛けします。


 朝の時間は貴重だというのに、ハザードが時間を気にせずダラダラと語る不要な話に、心底どうでもいいと思いながら私は家へと歩き始めた。


 家の扉前まで来ると足を止め、後ろについてくるハザードを振り返る。

 私の視線とハザードの視線が重なると、今まで小煩かった彼の口が閉じられた。


 突然、大きく目を見開き驚きの表情を作った私は、彼の後方に視線をずらし、「あっ、あれは!」そう叫び視線の先を指差す。

 私が指差すより早く、ハザードは体ごと振り返り身構える。

 その隙に私は邸に入り、扉をパタンと閉めると鍵をかけた。


 ……あー、今のは……忘れもしないわ。

 ルーフェルムと初めて会ったお茶会で……だったわね。


 私はしたり顔を浮かべながら私室へ移動し、扉を開く。


 ……何で? どうやって? 

 既に、ハザードが部屋の中にいる……それも、水の入ったグラスを私に差し出しながらドヤ顔で……チッ。






 いつものようにマリーヌ夫人と向かい合って朝食をいただく。


 そういえば、王立学院に通っているここファブリエンタ侯爵家のカトリーヌ様とエミリオ様……。夏季休暇中だというのに一度も帰省していない。休暇前に届いた手紙には、気が向いたら帰るかも、という内容が書かれていたが。


「子供たちは、学院を卒業するまでは帰って来ないかも知れないわ」


 マリーヌ夫人が、二人は帰省しないだろうといって呆れているような表情を浮かべる。


「そんな……淋しいですわ。休暇中は昔のようにカトリーヌ様とエミリオ様と3人で楽しい日々を送ることができると思っていたのですが」

「まぁ。昔のようにですか? 水浸しになったり、泥だらけになったり……」

「マリーヌ様! 今更、そんな遊びはいたしませんわ」

「ふふっ。懐かしいわね。カトリーヌとエミリオが帰って来れない理由はね、婚約者を自分たちで見つけるのですって」

「まだ、二人とも婚約者がいなかったのですか?」


 ほとんどの貴族の令息令嬢は、学院に入学するまでに婚約者を決めているのに。


「今流行りの、『真実の愛』を探すのだと言ってね。婚約者を自分たちで探したいのですって。それを聞いたときに、学院を卒業するまでと期間を設けましたの。そうしたら、婚約者を見つけるまで帰ってこないと言われましたわ」

「まさか、マリーヌ夫人が『真実の愛』探しを了承するとは思いませんでしたわ」

「早くから『真実の愛』の相手と婚約したウィステリアみたいに、二人も『真実の愛』を探したいといって届いた釣書を見ようともしなかったのよ」

「わ、私が? 二人は私が、『真実の愛』でルーフェルムと婚約したと思ってるのですか?」


 信じられないわ。私とルーフェルムが婚約を結んだときの年齢を考えてみれば分かるだろうに。


「……えぇ。……あら? 違ったのかしら?」

「ち、違いますわ!」

「まぁ? ウィステリアが公爵令息の話をするときはいつも――。ふふっ。……あら、そろそろ学院へ行く時間になるようよ」


 ……話をするときはいつもって、なにが? ……いつもって、なんなの? その先には何て言葉を続けるつもりだったのよー!

 それに、なんなのこれ! 私の全身が一気に火照り出すし。なんだか食堂が一瞬で暑くなるし。今日は、朝からいい事ないわ。


 グラスの水を一気に飲み干す私を、マリーヌ夫人はニコニコ見ながら、先にダイニングから出ていった。






 馬車に揺られ学院へと向かう。

 休暇中は好きなクラスへ向かい、たくさんの友人達とその日の課題について意見を出し合い、話を挟みながら勉強を進めている。


 今日の私は、魔術の本を片手に錬金術の実習をする教室へと向かった。

 実習は、材料調達の関係で予約制だったため、休暇前に申し込んでいる。


 今日の錬金術の実習は魔晶石作りなのだ! 

 夏季休暇中、領地に帰省したセイリーン様とアンローズ様も、この日のために学院に戻ってきている。


「そろそろ時間ですわ。アンローズ様、魔術紋は描き終わりましたか?」

「あと、少しですわ」

「では、わたくしとウィステリア様で3人分の材料をいただいてきましょう」


 1人分の材料は、両手に山盛り3杯くらいのシルトと2リットルの山水。それと米粒大の天然石。


 シルトで砂山を作った中心に天然石を埋め込み山水を少しずつ加えながら魔力を与えて練っていく。

 黒に近い灰色の粘土になったところで、形を整え魔術紋の上に置く。

 その後、魔術紋に魔力を少しずつ注いでいくと、ゆっくり時間をかけて縮んでいく。そうして材料の天然石より小さく縮むと、今度はだんだん色が変化し始めた。


「茶色に変わってきたわ」

「わたくしは、深緑色です。セイリーン様は、何色に変わりましたか?」

「先輩方の説明では、最後は宝石のようにキラキラ輝くと完成だというお話でしたわね。お先に完成したようですわ。ルビーのような赤ですわ!」


 セイリーン様は、自身の魔力色の魔晶石の出来栄えに喜んでいる。

 彼女の作った石を見たいが、まだ魔力を注いでいる私とアンローズ様は視線を動かせずだ。


「わ、わたくしの石も光り出したわ! エメラルドみたい!」


 2人は喜びながら私の石に視線をずらす。

 茶色の石は赤みを帯びた黄色に変わると徐々に光を放ち始めた。


「ふぅー。やっと完成したわ」

「この石どうする? 私はピアスでも作ろうかしら?」

「セイリーン様、アクセサリーにするには小さ過ぎますわ」

「私も、ピアスを作りたいわ」

「まぁ、ウィステリア様もですの? それでしたら、婚約者様にプレゼントしてみてはどうでしょう。この魔晶石は、守り石と同じだと先輩方が言っていましたわ」


 ……ルーフェルムの耳に、オレンジ色のピアスかぁ……あっ、小さ過ぎて分からないかもしれないわね。もう少し大きければ良かったけど、人間の魔力量は多くないから。

 ――ルーフェルム、喜んでくれるかな?

 ……って、な、なんでルーフェルムにだなんて、アンローズ様に言われたまま考えちゃってんのよー! 


 とても小さな魔晶石だけど、初めて錬金した石に感動する。ざわめき出した教室内でも、次々に魔晶石が出来上がっているようだ。


「それなら、この後で外で食事をしてからジュエリー店に行きましょう!」

「そうね。午後の視察までは時間もあるし」

「ほ、本当にピアスにするのでしょうか?」

「えぇ。守り石だもの! 肌身離さず身につけていたいわ」

「そうそう。こんなに小さいのよ。絶対に無くさないようにしたいわ」


 そうして3人で訪れたジュエリー店では、アンローズ様とセイリーン様はその場で選んだ宝石と一緒にピアスを作ることに。私は、硝子のロケットになっているペンダントを選び、選んだ宝石と魔晶石をロケットに入れてもらった。


 午後は商業科の皆とセルビッツェ領の視察に出かけた。

 街へ行ったり、広場や川などを散策し活用法を話し合ったり。

 これからの商売や、どう改善すれば住みよい街になり、経済が早く回るかとか、そんな事ばかり話し合っていた。


 戦争で勝利を収めたからといっても、長い戦争がもたらしたものは、経済的な損失だけではなく、人々の生活にも大きな影響を与えているようだ。

 商業科の皆は、一日でも早く経済を回し人々の不安を払拭したいと、そう考えているのだ。


 実際に、平民たちの家族での暮らしを見聞きして歩いたからだろうか、帰りの馬車の中では急に前世でのことが思い出された。


 ……前世での私は、高校を卒業するまで児童施設で暮らしていた。

 高校生の頃から、必死にバイトして。その後、専門学校に入学してからもバイト三昧だった。

 施設を出て自立した生活を送れるようになった頃。お土産を持って帰ったときに、施設長に両親のことを聞いてみた。ただ、なんとなくそんな流れになっただけだったが、思いもよらぬ言葉が返ってきた。

 そして知ったのは、私はへその緒がついたままの状態で、施設の扉前に置かれていたということだった。

 それを知ったからといって、何かが変わったわけではなかった。『そうなんだ』そう思っただけだった。


(――人って変わるのね)


 この世界にきて、私の感情に色がついたようだ。色々なことを考え、悩み、喜び、悲しくなる。

 色々なことが感じられるようになったからこそ、この世界を楽しみながら生きていけたらいいなと思っている。

 でも、毎回そう思うのは……この世界で幸せな日常を送れているからだろう。前世では、何でも諦めていたような人間だったから。


 ……小説のウィステリアも、私と同じで人生を諦めていたのかも知れない。彼女は私で、私は彼女だったのかも……だから私はウィステリアとなって今を生きているのかも知れないと、そんな風に考えるのは可笑しいだろうか―――。




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