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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】
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46 夏季休暇 1



 夏季休暇中も、学院へと通う日々は続いている。

 休暇中は教員が教えてくれる授業ではないため、参加したい学科のクラスを選び学びたいことを学ぶ、という充実した楽しい時間を過ごしている。



 ルーフェルムは、夏季休暇中バードゥイン公爵家へと戻っている。

 星夜祭の次の日に朝一で、彼が我が家を訪れたのには驚いたが。

 その日、私が早朝訓練を終えたところで応接間へ呼ばれて行ってみれば、ゼフォル兄様と和やかに話をしながら待っていたといって、彼は柔らかな笑みを浮かべた。


(――昨日の今日で……顔を合わせるだなんて)


「今から、バードゥイン公爵邸へと帰る。その前に顔が見たかった」

「……あー、えっとー……私の顔?」

「あぁ。……じゃぁ、行ってくる」

「あっ、き、気を付けてね」


 そういって、送り出すことになったが……ルーフェルムは馬車ではなく馬に跨った。


 ……うわぁー! 今の馬の乗り方。……めちゃくちゃカッコいい! 


「ウィラも……可愛い」


 ま、まさか! 今の思考を……! 最低!


「はぁー。ルーフェルム、早く行かなきゃ日が暮れるわよ」


 棒読みで、そう言って見送る。

 照れ顔だったルーフェルムは、しゅんとした表情に変わると馬の腹を蹴って帰路に就いた。


 隣でゼフォル兄様が眉尻を下げ、そんな私を見下ろす。


「ルーフェルムは、帰還すると同時に王立学院へ入学したため、休暇中は邸でやる事が山のように用意されていると呟いていた。本当は、もっとウィラと過ごしたかったらしい」


 そう言った後で、真っ赤になった私の手をゼフォル兄様が引き、邸の中へ二人で戻った。




 星夜祭に参加したことで知ることができた成り上がり令嬢のことは、ある意味大きな課題となって私にのしかかっていた。


 あの日から色々と考えてはみた。けれど、いくら考えたところで結局は答えが出ない。

 彼女が小説の人物と違うのだから今後の予想が立たないし。この先のことが全く分からないのだから仕方がないけど。

 たまたま、読んだことがある小説の世界に転生したことで、先の事が予想できたわけで。普通だったら未来がどうなるかなんて分からないんだ。


 ……だったら、今日という日を無駄にしないように楽しく生きていこうと気持ちを切り替えるのが一番よね。

 ただ、いつ何が起こるか……不安が残るのよね。不安要素も視野に入れて、体を鍛え、知らないことを学び、殺されないように備える、を継続する方向でいく。うん、これだわ。



 ただ、あれからルーフェルムのことに関しては、まだ頭の中で整理できない。

 成り上がり令嬢との仲が小説とは全く違うことにも驚いたけど。私を婚約者として大事に想ってくれていたのが分かったからだ。


 それと、あの日渦のようにグルグルしていた気持ちの答えが最近になって分かってきたというか……。まだ言葉にするには時期尚早な想いが生まれはじめているのだろう。

 ただ、そうしたら今度は違うグルグルが発生したって感じで、困った。


 ……凄く気になる存在なのは確かなのよ。だって今までは、私の人生がかかっているし味方につけなきゃって思っていたし。

 でも今は、彼が私を大事にしてくれていると知って、違う気になるが増えたって感じなのよね。

 一緒にダンスを踊ったときの彼から伝わってきた感覚に、私は楽しみながら嬉しいと想った。……そう、嬉しいって。

 それが分かった今は、これからどう接していいのか分からなくなっちゃって。しばらくルーフェルムとは、会えないみたいだから良かったけど。


 ……どうせ、飼い慣らそうと思っていたんだから利用しちゃえばいいじゃん……いやいや、後が怖いから深く関わらない方が身のためじゃん。計画通り、私が外の大陸へ逃げたとしたらルーフェルムはなんて思うかな。寂しいって思ってくれるかな。


 こんなことばかり考えちゃう。あーやだやだ! 私ってば、ちゃんとしなさいよ! こんなの恋する乙女みたいじゃない! もうすぐ16歳の誕生日だし前世で21年生きていたのよ! 実年齢37歳にもなって乙女とかあり得ないでしょ!

 ……それよりも……この年なんだから、もっと淑やかに大人の女性らしさを身につけなきゃマズイのでは?




 今日一日が始まったばかりだというのに、そんなことを考えながら朝のランニングを終えると、私を迎えにきたハザードが無表情で罵ってきた。


「ウィステリア様、本日は二周多く走られましたが、多く走るならば速度も速める事をお勧めします。何故なら、その方が効率よく筋肉を鍛えることができるからです。つまり、一周するのに時間がかかり過ぎています。遅すぎです」

「だったら、走っているときに言って下さい。走り終わってから言われてもね」

「途中で私が口を出せば、ヤル気がなくなったと言うでしょう。または、今頑張っているから構うなとか」


(きぃ―――悔しい!)


 全く以てその通りだから、言い返せない。


「それと、もう少し軽やかに走る事もお勧めします。足の裏全体が地面に付いていますよ。その走り方では直ぐに体力が無くなります」

「分かった、分かった、分かったー」


 最近、ルーチェに変わりハザードが迎えに来るようになったことで、毎回こうやって朝から私をガンガン指導してくる。……頼んでもいないのに。


 確かに、指導してくれるのはありがたい。でもね、私は普通の人間なの。


 昨日なんか、ランニングの後で息が乱れてるって言われて開いた口が塞がらなかったわ。……当たり前だろー! 私は走っていたんだから、息が上がって当然なの!

 

 孤児院の子供達に騎士になりたいと言われたときに、『ハザードが適任』みたいな話をルーフェルムから聞かされたけど、家の騎士に交代で教えてもらうことにして正解だったわ。


 確かに、ハザードの技術指導は素晴らしいのだと思う。

 だけど、それは竜人の彼らだからこそ指摘されたところを改善できるのであって、一般的な私達……普通の人間にはかなり難しいことなのよね。寧ろ、改善できるはずが無いってこと。

 今までずっと、私の生活を覗いて……護っていたのに、なんで分かんないかなー。とつくづく思う。



 

お読み下さりありがとうございました。

誤字脱字がありまさしたらごめんなさい。

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