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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】
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39 セルビッツェ国立学院 4



 言葉のコミュニケーションが成り立ってくると、周囲からの私を見る目がかなり変わってきた。


「公爵家に嫁ぐために、あらゆる知識を身に着けたいだなんて。勉強家だね」

「皆様、ウィステリア様と同じ学び舎に通え親しくなれて喜んでいますのよ」

「夏の休暇に大学院から天文学の講師がお見えになりますが、ご一緒にどうでしょうか」

「こんなに努力家の婚約者を持つことが出来て、公爵家の令息が羨ましいな」

「先日の抜打ちテストで満点だったんだって? 素晴らしいね」

「夏季休暇中に、バーベキューを催すのですが、学院内だしお友達も誘って参加して下さい」


 ふ・ふ・ふ……今日の挨拶活動だけでこんなに話しかけられました。めっちゃ計算通りに事が運んだわね。


 それと最近では、先生方からもお褒めの言葉をいただくようになった。

 なぜ? 褒められる?

 ……知識が豊富だの? ……見聞が広いだの?

 わざわざ名を呼ばれ、足を止められる。

 生徒会の会長に立候補してみたらどうかとか、集会の生徒代表を務めてみないかとか……。苦笑いで面倒事を回避しなきゃで、声をかけられる度にテンション下がるだけなんだけど。

 

 そして私は気づいた。

 あら? もしかして、これは?

 いつの間にか残念令嬢じゃなくなっているんじゃない? ……私ってば、さすがだわ!

 これなら皆、家に帰っても私の悪口言わないわよね? 母様からの死の宣告を回避できてるのでは?


 日々の小さな努力を積み重ねたことで、私は侯爵家の令嬢として生き続けることができる。そう思うと、『継続は力なり』私はこの言葉に感謝した。だからといって、実行した私自身への感謝が一番なんだけど――。






 このところ、たくさんの知人ができてきた。学院生活も楽しい日々を送れてる。

 そして、なんといっても嬉しいのは、初めて迎える夏季休暇だ。バーベキューに流星群の観察、夏野菜やフルーツの収穫。領内のチャリティーバザー参加など……みんなから、色々な催しに誘ってもらえ、私はウキウキしながら毎日の学院生活を送っていた。

 それなのに、夏季休暇を前にして、ファブリエンタ侯爵家の老執事から一通の手紙を渡されたことにより、私はしょんぼりと肩を落とすことになった――。




 それは、学院に向かうため馬車に乗り込もうとしたときのことだった。


 老執事が、「ウィステリアお嬢ー様ー」と顔を青くして私に向かって走ってきた。年寄りが走る姿に驚き、私から老執事に駆け寄ることになったが。


 彼が「ゼーハー、ゼーハー」と息をきらしながら渡たしてきた……私宛の封書。それは、封蝋を見れば家から送られてきたものだった。


「帰って来てからでも良かったのに。走る姿を見て、貴方の心臓が止まるんじゃないかと驚いたわ」

「いいえ。それまで預かっている方が身が持たないかと思いまして……」


 老執事は、両手を前に出し震わせた手を更にぷるぷると左右に振る。持っているのも嫌だと言いたげな老執事の困り顔を見て、私は封書に視線を落とし首を傾げた。


(……これって……呪われた手紙なの?)


 実家の封蝋の下に書かれている文字を読むと、ルーフェルムの名前が書かれている?

 なるほど、身が持たないってそっちの意味ねとクスリと笑ってしまった。


 でも……ちょっとまずいかも? 実は、セルビッツェ国立学院に通うようになってから、一度も我が侯爵家へ帰っていないのだ。


 ルーフェルムには、家に戻るときには連絡を入れるからとは言ったけど……。家に戻っていないのだから、連絡していないのは当然で。


(うーん……)


 これは、ルーフェルムが我が家に来て手紙を書いたってことよね。

 王立学院で成り上がり令嬢と出会ったことで、私のことなど居ないものとされるのだろうと思っていたが。 

 まさか、ルーフェルムの方から連絡してくるとは思いもしなかった。


 なんとなく、封を開くのも躊躇われる。が、自分の身が可愛いなら開けるしか選択肢はないよね。


(……何が書かれているのだろう?)


 小説では、今ごろの話の内容はどんなことが書かれていたっけ? 何もなかったような気がするけど、などと思いつつ封を開く。


 ……なになに? 『王立学院の星夜祭では、最高学年の学生は婚約者との()()参加のダンスあり』

 ……はっ? 婚約者との強制参加?


(な、なんですとー!)


 そんなの聞いたこともないし! 更に、その先には『ドレスは購入済み』侯爵家に届けたと書かれている。


(……思い出した!)


 そうだ。婚約者のウィステリアを置き去りにして、 成り上がり令嬢の取り巻きの中へと消えて行ったレイバラム殿下の話があったわ。


 それは、王立学院で毎年催されている星夜祭での話だった。

 王立学院では、夏季休暇が始まって直ぐに星夜祭なる親睦会が催される。学院内という中の小さな貴族社会の催しだ。


 確か、婚約者が学院に在籍していれば、卒業生や入学前の令息令嬢たちも参加できたはずだ。


(……その集まりに、私も強制参加しろと?)


 もしかして、人物は違えど……?

 小説とは違って、今度はルーフェルムが私をほっぽり出すんだろうか。


 はぁー。今から気が重いわー。私が参加したところで、どうせダンスなんか踊らないでしょうよ。

 ……なのに、なんでわざわざ呼び出すのかなー。

 ……あっ、もしかして……好きな女、成り上がり令嬢を見せるため? ……だったら今のうちから私との婚約を解消すればいいじゃんよ。

 行きたくない。あー、行きたくない。どうしてルーフェルムが他の女に媚びている姿を見なきゃいけないのよ。……イライラする。ムカムカする。

 でも……一番は、チリチリと胸が痛い。どうしてこんなに痛い思いをしなきゃならないわけ? 


 私、もしかして……病に侵されているのかも? 






 サンサンと日差しが降り注ぐ中、教室の窓から見える外の景色に目を細める。

 校庭で行われている魔術の授業では、魔術を行使して火を起こしているようだ。


 先の戦争により魔結石の価格が高騰したことで、実習の授業は年に8回から5回に減ったのだと聞いているが、それもいつまで続くか分からないのだという。


 手に持つ、よれよれになった書面に視線を戻せば、この時間の授業に魔術を選択していなかったことが悔やまれた。


 ……書面の裏側に魔術紋を書けば、火で燃やすことが出来たわね。

 勉強熱心な訳じゃなく、ただ目の前のこれを跡形もなく燃やしていればという愚直な想いからだけど……。


 そんな私の思いを知ってか知らぬか、大きな火球を作り出したダーバスカル様が、こちらに向かって見てみろと言わんばかりに手を左右に振ってくる。

 手を振り返したところで、その隣にいたアガルレック様は火球の形を手の形へと変化させ、それを左右に揺らした。


「うわー。アガルレック様ってば凄いわ!」

「優秀さが魔法にも現れるのね」

「本当に1年かよ。凄すぎじゃねー」


 商業の専攻授業中、クラス内が一気にどよめき立つと歓声や拍手が響き渡る。


 先生自ら先頭に立って黄色い声援を送っている姿を横目に、私は深いため息を吐き出した。




お読み下さりありがとうございました。

誤字脱字がありましたらごめんなさい。

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