38 セルビッツェ国立学院 3
この話、会話なしです。m(_ _;)m
皆の私を見る目を変えるには、まずは私が変わらなくてはならない。そう考えていると、私の脳内をチラリとよぎったのは前世の記憶だった。
それは、私が亡くなる前にたまに読んでいた流行りの小説の中に良く現れるヒロイン。
彼女たちは婚約者のいる令息を数人侍らせていたり、ヒーローを悪役令嬢から掻っ攫っていく、やり手の女主人公。そのほとんどのヒロインが、元平民だったり下位貴族の令嬢という設定だった。
そして、彼女たちの天真爛漫なところに皆は惹かれていく。
……これだ! ヒロインちゃんと違って私は上位貴族の令嬢だけど。彼女たちのような愛されキャラに……なってみるのはどうかしら? う―――ん、どうやって?
そういえば、彼女たちはガンガンボディタッチしていたわよぬ? ……あれはないわ。私がここで誰彼構わず触りまくっていたら、今度は白い目で見られるわね。
ならば、それ以外で天性の愛されキャラの要素って言えば、明るくって笑顔が魅力的なところかしら? 初めて会う人でも、自然体で話せちゃうのが彼女たちの魅力のひとつなのよねー。ん――、難しいわね。
……あら? あらあら? 難しくないんじゃない?
よくよく考えてみれば、母様の飄々美人と違って活発美人だとよくゼフォル兄様から頬ずりされていたくらいだし。父様と同じ苺色の大きな瞳と可愛らしい童顔が似ているって、母様は私の性格以外は絶賛しているのよねー。
オーホッホッホ……自分で言うのもなんだけど、私って見た目がめっちゃ可愛いわよね? ……なのに、なんでかモテないんだけどっ! こんなに美人さんなのに、なんでだ? 誰からも声がかかったこと……なくないか? まぁ、今はそれは置いといて。
そう、見た目の魅力はたぶん大丈夫。笑顔? うん。持ち前の活発スマイルも、とってもチャーミングよ! 私って、魅力に満ち溢れていたのねっ……誰にも言われたことないけどっ!
それと、初めて会う人にも自然体で話せるかってことよね! あーら簡単、簡単。これなら、私だってヒロインになれるんじゃん! ……違ーう! ヒロインになるんじゃなくて、目指すは愛され侯爵令嬢ウィステリアよ! そう、周りの人を笑顔にするのが私の使命なんだから! ん? ……なんか、だんだん趣旨から逸れてない? いんや、これで行こう! たぶん、これが最善だと思うし、これしか思い浮かばないし、これ以上考えるの……ちょっと面倒。
そうして、私の使命を果たすために……ん? 私の明るい未来のために導き出した最善策は、挨拶である。
だって、挨拶は大事でしょう? たくさん学生がいるのよ。それも、初めて見る人ばかりなんだから! 挨拶は、知らない人と話すことができる手段だしね! だもん、これならいけると思ったわけよ。オーホッホッホ……ケホッ……。私ってば、お利口さん!
そして、その日の夜……部屋から早々にルーチェを追いだした後で、一晩じっくり姿見の前で笑顔の練習をした。
頑張り過ぎて寝不足だったが……両目の下にできたクマにテディとベアと名付けてやり、チャームポイントとなったクマさんの力を借りて私は実行に移した。
登校時、馬車を降りてから教室まで、『おはようございます』とキラキラスマイルで挨拶し続ける。侯爵家の令嬢である私の超笑顔で挨拶された皆の反応は――。
ふ・ふ・ふ……皆、ビックリしているわ! 目を大きく見開き、口を大きく開いたまま……あんぐりとっ!
まぁ、つかみはオッケーってことで。始めたばかりはこんなものだろう。これから続けていくことで周りの反応が変わっていくのだ。『継続は力なり』日本のことわざって、本当に素晴らしいわ。
母様、ウィステリアは日々頑張ります! 我が家の明るい未来の為に、小さな努力を積み重ねることを誓います!
ふわりと柔らかな笑顔を撒き散らすこと、早一ヶ月。この頃になると、私の姿を捉えた学生らが先に挨拶してくるようになってきた。
挨拶は、相手に自分の存在を知らせることができるし、平民だろうが貴族だろうが関係なく学生個人としての印象を良く見せることができる。それは、相手側から見ても同じこと。
私に気づいて声をかけてくれる学生たちに、私も自然と好感を持つようになった。
その後、徐々に覚えたての学生の顔を見ると、『今日は気持ちの良い天気ですわね』などと付け加えていく。すると距離が縮まり、更にコミュニケーションがとれるようになっていく。そうして、名前を知らない学生たちとも挨拶として短い会話をするようになった。
……侯爵令嬢としてのプライドは? 気にないないのよね。そんなものですよ。人生勝ち組になりたきゃ気にしてられないって感じよね。
だからといって、侯爵令嬢らしく立ち振る舞っているからこその言葉よ? 上位貴族としての矜持は身に備わっているからね。気にするとかじゃなくて、侯爵令嬢としての嗜みは自ずとついてくるってわけで。それに、私が気にしなくても侯爵家の令嬢ってだけで学生の皆は気づかいしてくれるからね。
そしてなんと! 驚くことが!
なんとなんと、たまに遠くから聞こえてくる言葉に注意深く耳を傾けていると……『いつ見ても美しい』とか『笑顔が素敵で可愛らしい』とか。
オーホッホッホ……私ってば、やっぱり魅力に満ち溢れていたのよぉー! ねっ、ねっ! 自分の思い込みだけじゃなかったってわけ! まぁ、嬉しすぎて自分に酔いしれてしまうことを覚えてしまったわけだが、それはそれとして――。
そこからは、私の巧みな話術が功を制したと言っても過言ではないだろう。
皆、私と仲良くなったと思ってくれたことは幸いで、次々と色々な情報を話してくれるようになった。
その中で、貴族令息令嬢らのお兄様とお姉様たちが、自己紹介をして近づいてくる人達も増えてきた。私は知らされた家名から脳内にある情報を引っ張り出し、話題を作る。これ重要!
でも、下位貴族がちょっと多すぎて知らない家名が……でも、覚えるのが大変だけど縦繫がりのある彼らの情報は素晴らしいものばかりだ。
そんな彼らに私の情報をたくさん他言してもらうために、私もたくさん自己アピールして素晴らしい令嬢だと植え付けることを目指した。せっかくなので、美しさアピールも添えて―――。
お読み下さりありがとうございました。
会話がなくて……。ごめんなさい。
m((_ _; )m_ _;))m




