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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】


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31 凄腕の魔術師 1



 待ち合わせの時間にルーチェと裏ギルドを訪れると、入店したばかりの私達に向かってカウンターの内側から赤い短髪の男が声を張り上げた。


「よお! ブランデーケーキは好きか?」


(……もしかして、私に聞いているのかしら?)

 

 前回来たときにこんな人いたかなと、腕を組んでう――んと考える。


 全く見覚えがないのだけれど。気軽に声を掛けてきたってことは、ルーチェの知り合いなのかな。


 隣にいたルーチェを見るとクスッと笑い赤い髪の男に返事を返した。


「私達、ケーキは大好物です!」

「そうか。じゃぁ、下にも持っていくとするか。少し待っててくれ」


 赤い髪の男が振り返り後ろを向いたところでルーチェに耳元で、「裏ギルド長ですよ」と小声で告げられる。

 信じられない人物の名前に、あんぐりと口を開けた。

 そうは言われても、違うのは見た目だけではない。声まで違う。全くの別人だとしか思えない。


 ルーチェ曰く、変装はダルシュの趣味らしく、見分け方は右目の下にある小さな泣き黒子なのだという。


 硬直したまま目の前の男を凝視する。

 ……泣き黒子……あっ、あった。

 見つけられた小さ過ぎる黒子に、次からの変装も見破ることは出来そうにないと思った。





 ダルシュ専用の執務室では、約束していた人物を紹介される。

 

「はじめましてウィステリアと申します」

「どうも、チェンスター・ロガールです」


 黒いローブの隙間から見える漆黒の髪に黒い肌の男は、獲物を見つけたと言わんばかりに金色の瞳をギラリと光らせ鋭い眼光を私に向ける。彼は、裏ギルド長のダルシュに依頼して紹介してもらった魔術師様だ。

 以前の私だったら、チェンスターの威圧感に圧倒されてしまっただろう。でも今の私は、こんなもんじゃびくりともしない。そりゃそうだよね……ルーフェルムの放つ殺気に何度も当てられたばかりだもん。それに比べたら屁でもないって。


 全く動揺することもせずにふんわりとした笑みを見せて挨拶をすると、彼は目を細め口角を上げた。


 チェンスターは黒いローブを脱ぎ全身を露わにし、金の刺繍が施された白い半袖シャツから筋肉質の黒く長い腕を私に差し伸ばす。

 先ほどまで吊り上げられていた目尻は下がり、今度は興味津々に金色の瞳をキラキラと輝かせて私を見始めた。


 握手を求められ笑顔で応じると、食い入るように私を見る彼に少し戸惑いを感じた。

 ……私って、そんなに珍しい顔をしていたかしら? あぁ、真紅色の目が珍しいのかな? それにしても、初対面でこんなにジロジロと見てくるだなんて、かなり失礼だ。


「そんなに見られると、恥ずかしいですわ」


 そう言って、ぽっと染めた頬に手を添えて上目遣いで彼を見る。もちろん、演技だけど。


「雇い主から、依頼主はとても惹かれる令嬢だと聞いていたが……こんなに可愛らしい女性だとは思わなかった」

「まぁ。可愛らしいだなんて……嬉しいですわ」


 一応、そう答えてはみたけれども。要は、なんだ子供かよ! と言われたのだ。

 ヒクヒクと動き出した頬を添えていた手で押さえながらソファーに座る。そのあとで、チェンスターはソファーを後ろに引いてから腰を下ろし長い脚を組んだ。


 かなり長身である彼は長い脚がテーブルに当たり窮屈そうだが、スラリとした細い体型が逆に開放的に見せている。その姿をまじまじ見ていると、彼はコホンと咳払いをしニヤリと笑った。


「俺は、魔術師だが錬金術師でもある」

「両方の使い手様なのですか」


 見た目では、二つ年上のルーフェルムと同じくらいの年齢にしか見えないのに、魔術も錬金術も出来るだなんて。あの態度が気に入らないけど、凄い人だなと感心する。


「見て分かったと思うが、この国の人間ではない。だからといって、祖国への忠誠心もないが。俺は金が欲しい。魔結石を買うためだ」


 なんとも初対面から直球なのだろう。この人は、私と直接取引きするつもりなのかしら?


 ダルシュを見るとポカンと口を開き呆れ顔で彼を見ている。

 まぁ、変に回りくどく話すよりよっぽどいいか。そう思いそのまま会話を続けてみる。


「なるほど。では、魔結石を買って何をなさりたいのでしょうか?」

「魔術にも錬金術にも魔結石が必要だからな……ダルシュのように何処かの組織に入っていれば入手しやすいのだが、生憎俺は人に使われるのが苦手でね」

「ダルシュとは、どのようにお知り合いになったのでしょうか?」

「ん? それは、ダルシュの仕事中にバッタリね。お互い似たもの同士で、打ち解けたって感じだったな。それからは、俺の金が無くなるころにダルシュから仕事の依頼が入るようになった」

「おいおい。チェンスター、嬢ちゃんにペラペラ話し過ぎやしないか?」


 先日と違い、今日のダルシュは女装をしていないため、なんだか普通の男性に見える。


 ……あれはカツラだったのね。まさか、こっちの赤い短髪もカツラとか言わないわよね。

 ワゴンの上でティーポットからお茶を注ぐダルシュの髪の毛に視線を奪われていると、チェンスターがとんでもないことを口にする。


「あぁ。えっと……ウィステリア? この娘が相手だったからな。な、ウィステリア。俺はひと目で気に入った」


 な、な、今なんて? 私の聞き間違いじゃぁないわよね? 目を細めた奥の金色の瞳がやけにギラギラしていらっしゃいますが?

 ……気にいったって、どこを? 何が? ……いいえ、駄目よ駄目! 騙されちゃ駄目よ私! あの目は獲物を捕らえようとしているんだわ。私を獲物だと思っているのね!

 あー、思い出したー! 前世でいうあれだわ……そう、彼はホストクラブのNo.1ホストで、私から大金を貢がせる気だわー。

 めっちゃ怖いわー、でも私はお金なんか持っていないわよ? ……あっ、魔結石……か……。うわーこの人最低ー。会ってからまだ何分も経っていないのに、私を上客にするつもりなんだー。

 でも残念ね。ルーフェルムの銀色の瞳のギラつきには負けてるわよ! 容姿もルーフェルムの方が何十……何百倍もカッコいいし。あんたなんか眼中にも入らないわ。


 しかし、初対面で呼び捨てにされるだなんてと不快に思うし、それと同時に『気に入った』などと口に出すなんて、こっちは気に入らないっつーのに。 


「気に入った? って、困りますわ!」

「チェンスター。おい、ちょっと待て。連れて帰るとか言うなよ」


 ダルシュが焦ったようにそう言うと、彼は親指の上に顎を載せ小鼻についている金色のピアスを人差し指で弾きながらニンマリとし、爆弾を落とした。


「連れて帰りたいが、ウィステリアは既にマーキングされているからな。連れて帰りたいが命が幾つあっても足りなそうな相手だ」

「マ……マーキング?」


 私は我を忘れソファーから立ち上がる。

 初めて聞いた……初めて聞いたけれども……。


「ねぇ、何それ! マーキングされているってどういうこと?」


 テーブルに手をバンッと付くと、前のめりになり強い口調で問いかける。


 チェンスターは口をポカンと開き、その場で一瞬固まった。


「………ハ……ハハッ……ハハハ……」


 突然笑い出したチェンスターに私が困惑すると、ダルシュが笑い過ぎだと言ってチェンスターを戒める。彼はダルシュに叩かれた肩を擦りながら笑いを止めた。


「あー、悪かった。……しかし、どういうことって言われてもな。思い当たることはないのか?」

「な、ないこともないけど……」


 なんとなく目を反らてそう告げれば、視線の先にいたダルシュが信じがたいという表情を浮かべる。


「お嬢ちゃんは……そうか、ラジェリット侯爵家の令嬢だっのか! 金髪に真紅色の目は、侯爵と同じ色だったのに、なぜ俺は気がつかなかったんだ?」

「今更ですか? 分かっていたから魔法契約を交わすと言ったのかと思っていました。でも、どうして容姿より先に私がラジェリット家のものだと気がついたのですか?」


 首を傾げてそう尋ねると、ダルシュは頭をかきながら答えた。


「お嬢ちゃんの婚約者様が……な……」

「婚約者がどうかしましたか?」

「チェンスターと同じような人だからかな」

「同じような? それは、どういったことでしょうか?」

「……んー……まぁ、素晴らしく強い人ってことだ」


 今のが答え? チェンスターと同じような人とはどういうこと? 全く意味が分からない。

 戸惑いながらも対面に座るチェンスターに尋ねれば、彼はククッと喉を鳴らすかのように小さく笑った。


「普通の人間なら、恐怖で口に出して言えないんだよ。俺は獣人で、ウィステリアの婚約者は竜人だってことさ。といっても、今の時代の獣人は昔のような力はほとんどない……」


 私は驚きのあまり硬直し、硬直したまま目の前のチェンスターを凝視する。


 変わりに答えたチェンスターの言葉は続けられているようだが全てが耳に入って来ない。


「俺は、黒豹の獣人だ。耳も無ければ尻尾も無いが……って、おい! 聞いてんのか?」

「はっ! き、聞いてるわよ。ところで獣人って?」

「この大陸に来てるの俺だけかも。ここフォールヴァン大陸はウィステリアの婚約者たちのテリトリーなんだよ」


 ……テリトリーって、縄張りってことよね。でも、チェンスターは竜人の縄張りの中に居るわよね? それって、竜人にバレたらどうなるのかしら? 竜人にバレたら……って、はっ……そうだ! ハザードが近くにいるんだった。




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