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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】
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18 突然の訪問客 2



 以前のルーフェルムは、丁寧さに欠ける言葉を使うことが多かったけど、自分から話をする人だった。まぁ、子供だったからと言えばそれまでだが。

 でも、今隣で食事をする彼は何も映すことが出来なくなった死んだような瞳をしている。私から見ればそう見えるし、視線が重なれば射殺すような冷酷な瞳にしか見えないのだ。

 これから先、そんな目をした彼と会うのかと思うと、その度に寿命が縮まるのではないかと、ぞっとする。


 ……何か解決策はないだろうか。

 そんなことを考えて見れば、ふと記憶にある小説の中を辿っていた。


 ……あっ、そうだ。戦争から戻ってきたルーフェルムの話といえば――。どうして、忘れていたんだろう。


 思い出した記憶は、彼の噂話だ。

 小説では、ルーフェルムは戦地から戻ってきてからすぐに学院へ通い始めた。彼は最高学年から入学したことで、1年間だけだったが学院へ通っていたのだ。そんな中で、二つ年下の成り上がり令嬢と彼は出会った。

 彼は学院で成り上がり令嬢以外の学生と接することをしなかった。逆にいえば、成り上がり令嬢だけが唯一彼と交流できたのだ。

 そして、ルーフェルムが学院を卒業してから2年後。ウィステリアが迎えた学院の卒業式で、成り上がり令嬢と恋仲だった婚約者のレイバラム第二王子殿下にウィステリアが婚約破棄を言い渡された。

 その直後、ウィステリアがルーフェルムとの婚姻を言い渡されたときの場面で、皆が噂するルーフェルムの人物像が書かれていた。



◆◆◆



――周囲から憐れみの表情を向けられる中でウィステリアがざわめきに耳を傾ければ、『喜怒哀楽を失くしたという公爵家の令息』、『人の心を失くした英雄と言われている方』、更には『敵だけではなく味方まで斬りつけると噂の惨忍な人』……そんな方と婚姻するだなんて私なら耐えられない、という言葉が聞こえてくる。そんな人物との婚姻を突然言い渡されたウィステリアは、恐怖で震える体を両手でギュッと押さえつける事しか出来なかった。



◆◆◆



 そんな話が書かれていたのを思い出す。

 戦地から戻って来てからのルーフェルムの3年後は、誰もがそう噂する人物だったのだろう。社交界でも彼のサイコパスは名を馳せていたと書かれていた。


 その話から察すると――。


 ……これって戦闘ストレス反応よね。

 多分、戦闘によってもたらされた心因性疾患や後遺症じゃないかな。

 ……うん。それしか考えられないわ。

 だって、子供の頃はその辺にいるガキんちょだったのに。何かキッカケがなければ、こんなに変わるはずがない。

 ……そうだ……戦争のせいだ。

 目の前のルーフェルムは、病人なんだ。


 彼が心の病にかかっているということは、私がカウンセラーになれば……。

 そう考えると、なぜだろうか私の中の彼への恐怖が薄くなっていく。

 



 それならば、治療が必要で。

 先ずは、彼も気づいていない不安を和らげていくことが大事だと思う。私にはルーフェルムの感情なんか理解できないから、助言なんかも無理だ。

 でも、カウンセラーの知識はないけど、私が出来そうなことを。そう考えると、やはり会話か。


 何か話をした方がいいのよね。

 何を? ……話す内容は、

 ―――――――――無くないか?


 うわー、ここまで考えたのに?

 いざ話しかけるとなると、なんにも考えつかないわ。

 何か、何かしらあるはず。でも、何年もずっと会っていなかったからなー。

 ……ん、待てよ? そうだ、何年も会っていなかったってこと。それを話題にしてみたらいいのではないだろうか。


「ル、ルーフェルム様。最後にお会いしてから……5年振りになりますが、お互いに以前の面影が無くなるくらい成長しましたね」


 ニコリと微笑み、そう告げてみた。しかし、ルーフェルムはギロリと私を睨み見る。


 ……な、何か不味いことを言ったかしら?

 ……だ、駄目だった?

 私ってば、話す内容が良くなかったの?


「……様? ルーフェルムだ」


 ん? あっ、呼び方ね。

 話の内容を指摘されていないってことは、

 ……つかみはこれで良かったってことよね。

 それより、会話を続けないと! これで、話が終わってしまったら、もう話題が思いつかないわ。


「そうでした。……ね、ルーフェルム」


 ちょっと強張ってしまったけれど、ニコリと笑顔でそう答えて見れば、彼の視線が和らいだような気がする。


「……正確には6年と9ヶ月振りだ」


 6年9ヶ月って? あー、会ってなかった期間ね。

 つうか、細かっ! 約7年振りだったのか?


 最後にルーフェルムと会ったときを思い出し、それからずっと会っていなかった期間をどうにか計算しながらダイニングに急いで足を運んだのだ。

 その時、どれだけ会っていなかったのか年数を数えていたのに、途中までしか数えぬ内に扉前で深呼吸を始めたんだ。


 私ってばツイてないわ。出だしから指摘さられるとは……。

 でも、話しかければきちんと言葉を返してくるのだから、会話はオッケーってことよね。

 それに呼び方もだけど、会っていなかった期間をきちんと明確に覚えているってことと、お揃いのピアスもしているってことは、そこまでは嫌われていないのかも知れないわ。


 ……あら? みんなどうして私をそんな目で見るわけ? 

 目は口ほどに物を言うというが、早くどうにかしろと言われているかのような家族からの視線がとにかく痛い。……私、めっちゃ頑張ってるんですけどっ!


 ふ・ふ・ふ……でもね、そんな目で見られたからといって今の私に怖いものはないのよ。

 ダイニングの扉を開いたときには、悪魔に差し出された生け贄になった気分って感じだったけど――。



お読み下さりありがとうございました。

誤字脱字がありましたらごめんなさい。

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