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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】
18/50

17 突然の訪問客 1



 ジルベンタ様との現地視察をひと月後と約束し、馬車に揺られ邸に戻ると執事のマークが私の帰りを待っていた。


「おかえりなさいませ。ウィステリアお嬢様宛の封書が届いております」

「ありがとう、マーク」


 柔らかく微笑むマークにお礼を告げると、彼は表情を険しい顔つきに変える。


「お嬢様。お戻りの時間が遅すぎです。日が暮れる前までにはお帰り下さい」

「分かったわ。心配かけてごめんなさい」


 日が暮れるまでって……、いつまで私を子供扱いするつもりだろう? 小さな頃から祖父のように大好きだった彼は、私の謝罪の言葉の後で柔らかな表情を浮かべた。



 


「夕食の時間ですので、お着替になりましたらダイニングまでお越し下さい。夕食の席ではお客様もご一緒に食事をおとりになるとのことです」

「お客様が見えているのですか? 分かりました。用意を終えたらすぐに向かいます」


 疲れて帰ってきたのに。父様がお客様を夕食の席に招待したのね。さっさと食事を済ませて、今夜は早く寝たかったのに、最悪だわ――。


 部屋へ戻り着替えた後で、身なりを整えるとマークから渡された封書を確認する。


 一封目の封書は、裏ギルド長のダルシュからだ。

 内容はというと、凄腕の錬金術師と魔術師が見つかったようだ。なので、すぐに会いたいと書かれている。明後日の昼過ぎに店に来いと……。明後日? ……早すぎるだろう! かといって、なるべく早急にと話をしたのは、私か。 


 次の封書は……あら、公爵夫人から? 久しぶりに王都に出てくるのかな? 封蝋の家紋を見て、そんな事を考えながら封筒の中から書面を取り出す。開いて確認して見れば……。


(……はぁ? 嘘でしょう?)


 手紙の内容に驚く。手からスルリと落ちた手紙をそのままにして、急いで部屋を出た。


 こんな突然に困るわよ。あっ、ルーチェを待たずに部屋を飛び出して来ちゃったわ。でも、床に落ちている手紙を見れば彼女も気づくはず。……そういえば、すっかり忘れていたが……何年ぶり? 1、2、……5?


 ダイニングの扉の前でピタリと足を止める。


 執事のマークから渡された手紙を見て急いで来たまでは良かったが、いざダイニングの扉の前まで来ると緊張が押し寄せてくる。

 深呼吸を何度か繰り返し最後に大きく息を吐き出すと、気合を入れて目の前の扉をゆっくり開いた――。



「遅くなり申し訳ありません」


 淑やかに、且つ申し訳なさそうに入室する。


(……あれ? ルーフェルム、だよね?)


 入室して彼の姿が視界に入ると私は首を傾げた。


 彼の黒に近い碧色の美しい髪色が白銀色に変わっていたからだ。


 疑問に思ったところで、椅子から立ち上がり私をじっと見るルーフェルムの視線に体が強張り、それを尋ねる手立てがなさそうな雰囲気を醸し出している。


 サイドから前髪にかけて下がるショートボブの髪型は、目にかかる前髪がめちゃくちゃ色っぽく見えて長い首の彼によく似合っている。

 白銀の跳ねた遊びのある髪の下に見える耳に、私と色違いのお揃いのピアスが付けられていることに気づくが、彼にとっては何の意味も成さないものだろう。

 高くなった身長、広くなった肩幅、子供らしさが抜けた青年の顔。成長し、更に磨きがかかった見目の麗しい容貌。


 ……ずっと見ていたい……が、めちゃくちゃ怖い。何もしていないのに、どうしてそんなに冷酷な目つきで見られなきゃならないのか。


 変わっていない銀色の瞳とガッチリ視線が重なると、目が左右に動きたじろいでしまう。だからといって黙ったままでもいられなく、勇気を出して声をかけた。


「ルーフェルム様。長い間、お疲れ様でした。無事のご帰還おめでとうございます。こちらには、いつお戻りになりましたか?」

「あぁ。先日だ」

「……そ、そうでしたか」 


(……む、無理だわ)


 会話なんか続かないって! 今すぐ、この場から逃げ出したいわ。

 せっかく笑顔を作り出したのに、頬がヒクヒクと勝手に動き出す。


 会話の続かない私達の様子に、肩を落とした父様から席に促され彼の隣へと腰を下ろすしかなかった。




 終始無言に近い夕食の席は、通夜の席でもあるかのように誰もが口を無くしたようだ。緊張しながら黙々と食べるだけの時間は、不快としか言いようがない。


 横目でルーフェルムをチラリと見れば、生気がない……そんな目をしながら食事を口に運んでいる。


 美味しいとか、不味いとか、そんなことはどうでもいいような。ただ目の前に(しょく)す物があるから食べているだけだというような。そんな風にしか思えない顔だ。


 そんな彼を見て気がついたのだが、もしかすると彼の冷たいと思う目つきは、そう見えるだけなのかも知れない。

 生気のない表情を見てそう思ったのは、感情が欠落しているように思えたからだ。

 彼は冷たい目をした訳ではなく、ただ見ていただけ……彼の『ただ見ている』その目が冷たく見えるだけではないのだろか。


 だからといって、問題が解決したわけではない。この気不味い雰囲気が今だけではなく、これから彼に会う度に続くのかと思うと気が重い。

 それならば……今、この場から改善していかなければと思うのだ。


 ……改善といっても、どうやって? 何かいい方法はないかしら? 例えば、冷淡な狂犬を猟犬みたいに服従させるコツとか――。




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