15 創作活動始めます 3
ルーチェを残し、ダルシュに連れられ店内の奥へと足を進める。階段を使い地下へ降りると小洒落た扉の部屋の前で彼は足を止めた。
「俺専用の執務室だ。中へどうぞ」
ガチャリとノブの音を鳴らせダルシュが扉を開き、私を中へ招き入れる。
執務室と言った割にはガランとした室内で、オブジェのように幾つかの魔道具が飾るように置かれている。
彼は、魔道具の前に立つと私にそれらを見せ口を開いた。
「この中に、お嬢ちゃんが作り出したい魔道具があれば、すぐに品物が出来るが?」
「見ただけでは、どんな用途で使うのか分からないじゃない。でも、説明を聞かなくてもこの中には無いわね」
そう言葉を返すと、ダルシュはニヤリと笑みを浮かべる。
「そうか。では、そちらのソファーに座ってくれ。まずは、どんな品物なのか教えてほしい」
テーブルの上に置かれている紙と筆を渡されると、私は彼の前でサラサラと絵にしてみせた。
「絵が上手いな。人が持っているこれは、銃か? 銃なら小さすぎだな。しかし、狙いを定めているように見えるが。これは何だ?」
まだこの世界には、ライフル銃のような銃身が長いものしかない。そのため、状況に応じた適切な射撃姿勢を取らないと的確に的に当てる事も出来ないのだ。
「小型の銃ですわ。それも、姿勢を気にしないで女性でも簡単に引き金を引けるものよ」
絵を見せながら簡単に小型の銃を説明すると、ダルシュは顎に手を置いたまま何度も小さく頷きながら真剣に聞いていた。
「銃弾の代わりに魔結石を使うのか? 弾薬の代わりに魔結石の間違いだろう」
「弾薬は要らないわ。この銃は、銃弾を飛ばす変わりに魔力を飛ばすのよ」
引き金を引くと、魔結石を飛ばすのではなく魔結石に閉じ込められていた魔力だけを飛ばす。その説明に、彼は大きく目を見開きヒューと口笛を吹いた。
「そして、銃を扱えることは本人だけにしたいの」
銃に魔術を施し、引き金を引いた人物が銃の持ち主だと銃事態が感知して発射する仕組みにしたいのだ。
「持ち主しか使えない魔銃よ」
「しかし、魔結石は数が少なく高価過ぎる」
「だからよ。私がダルシュに首を縦に振るときには魔結石ではなくて弾丸を飛ばす銃にすればいいじゃない。貴方が言ったように、弾薬の変わりに魔結石で飛ばすようにすれば? それなら魔結石の魔力は一瞬で無くならないわ。裏ギルドは魔銃と魔結石の両方が売れるわね」
「なるほど、小型の魔銃か。これなら貴族達に売れるな。しかし、予定ではいつ頃首を縦に振ってくれるんだ?」
「先ずは、私の欲しい魔銃が出来上がったら、もう一つの品物を作って貰いたいの。その後なら直ぐにでもいいわ」
「……もう一つ?」
「防具よ。人を殺す道具と対でしょう? 人を護る防具よ」
「ふぅーん」
防具にはあまり興味がないみたいで、ダルシュは気の無い返事をしただけでそれ以上は何も聞いてこなかった。……が、私としてみればこっちの方が重要なのだ。
そうして、無事契約をすることが出来たが。驚いたことに、裏ギルドとの契約ではなくダルシュ自身との契約だったことで契約金は少なく、錬金術師と魔術師の紹介料は出来上がった品物の精巧さによって決める事になった。
店内に戻るとルーチェが涙目で駆け寄ってくる。
「どうして置いていったのですか!」
「何人かは、昔の知り合いだったのでしょう? 久しぶりに楽しい時間を過ごして欲しくて……ごめんね」
「マスターにお嬢様がギルド長と奥に行ったと聞いて、楽しむどころではありませんでした」
「その割には、空のスイーツの皿が並んでいるみたいだけど?」
「ヤケ食いです!」
飲食代の支払いをマスターに頼むと、ルーチェが隣から甘ったるい声を出してくる。
「お嬢様ー。おとなしく待っていたのですから、一つだけ欲しい物があるので買って下さい」
「……こんなに食べたのに?」
「はい。どうしてもー、欲しいのでーす」
(……キモッ!)
体をくねらせすり寄ってくるルーチェを両手で押し剥がす。
「いいわ。何が欲しいの?」
「マスター! さっきの可愛らしいピンクゴールドの髪の令嬢が買った物と同じ物を一つ……やっぱり二つ下さい! お代はお嬢様が飲食代と一緒に支払います」
……ん? 成り上がり令嬢と同じ物って?
ルーチェは、何を買うつもりなの?
支払いを済ませ店をでるときにカウンターの中からマスターに可愛らしい小瓶を渡される。それをルーチェが受け取るとお嬢様は初めて使うからと説明書を催促し、私達は店を後にした。
裏ギルドが手配した馬車から侯爵家の馬車に乗り換えるとやっと肩の荷を下ろしたような安堵感に落ち着く。
先ほどまで静かに馬車に揺られていた私達は同時に口を開いた。
「すっかり忘れていたわ!」
「私は仕事をしてました!」
ルーチェは、与えられた仕事を熟していたのだと口を尖らせ私を睨む。
ルーチェが言うには、店内に居たお客様らしき人達は全員ギルドの人間だったらしい。
そして、私がダルシュと奥の扉へ消えてから、成り上がり令嬢の情報収集をしてくれていたのだ。出来る侍女を持ててありがたいと思って下さいと、得意げに鼻を鳴らす彼女には頭が上がらない。
小出しの話しをまとめると、成り上がり令嬢は元平民だったらしい。そして、数年前に馬車に引かれそうになったのだとか。
その時に馬車から降りてきたのが地方から王都に来ていた子爵家当主で、彼女は子爵家の馬車に乗って連れ去られた。
姿を見なくなってから約半年後。突然裏ギルドに子爵家の令嬢の名で現れ、それから出入りするようになったという。
毎回購入するのは媚薬で。当初は違法の媚薬を求めて来たらしいが。裏ギルドでは違法の媚薬を扱っていないため、合法媚薬を購入して行くが……頻度を考えると他で違法媚薬を購入し、そちらが手に入らないときに合法媚薬を購入しているようだということだ。
「合法媚薬も、毎日大量に摂取していると成分が体内に蓄積されていき麻薬のような作用があると言ってました」
「何に使っているのかしら?」
「多分、子爵当主にだろうって。数回、子爵当主も店に顔を出したことがあるみたいで、麻薬中毒者のような目をしていたと言っていましたわ」
「……本当なの?」
「試してみます? 飲み物に、二三滴垂らして服用するみたいです。強い即効性を求めるのなら、小瓶の半分の量をそのまま又は薄めて服用するって説明書きに書いてあります」
ルーチェが私の前で小瓶の蓋を開け、ニンマリと口角を上げる。もわっとした甘ったるい独特の香りに私は顔を歪めた。
「鬱陶しいほどの甘い香りね。鼻につきまとって不快だわ」
鼻を手で覆い顔を背けると直ぐに蓋を戻すようルーチェに告げる。
「……甘い香り、しませんよ? 無臭です」
蓋を開けただけでこんなに香りが充満しているというのに、ルーチェの首を捻る姿は冗談を言っている素振りも見当たらない。
「試さないのですか?」
そんな臭いものを私に飲むように勧めるだなんて、どの口が言ってんのよ。
「試さないわよ」
「あら、残念。せっかく買ってきたのに?」
「何かのときに使えるかも知れないわね。それ、2本ともルーチェにあげるわ」
来たるべきときに存分に使うと鼻歌を歌いながらポケットにしまうルーチェに、お願いだから私にだけは飲ませるなと何度も念を押した。
お読み下さりありがとうございました。
誤字脱字がありましたらごめんなさい。




