13 創作活動始めます 1
ルーフェルムと婚約してから何度目かの春を迎え、やっと今日という素晴らしい日を迎える事が出来た。
それは、今まで少しずつ計画をしてきた私の目的のひとつを達成するために、目標とした金額を貯める日々がようやく終わり、やっと……やっと今日、私は……扉を叩くことになったのだ。
……ふ、ふふ、むふふ……ようやくだわ。ずっと待ち望んでいた、この日がついに訪れたのよ。
早朝のトレーニングをさっさと終わらせ部屋へと戻ると、グラス一杯の水を飲み干したところでテーブルの上にサンドイッチが置かれているのを発見した。
「気が利くわね! お腹がペコペコだわ」
タップリのベーコンが挟まったホットサンドイッチから視線を離せず手が伸びる。
ルーチェが朝食を部屋へ運んでれただろう。それを大きく口を開いて豪快にパクリと噛りつく。
「まぁ、ウィステリアお嬢様! 先に髪を乾かさないといけませんのに」
「だって、お腹が空いちゃって」
クロークルームから服を持って出てきたルーチェはそう言った後で、呆れ顔で野菜ジュースをカップに注ぐ。なんだかんだ言っても、今日の彼女も私に甘い。
「それで、今日はついに会えるのよね。何時の約束だったかしらっ?」
「今日は家庭教師の先生方は午前中までのお約束になっています。その後で、昼食を済ませましたら街に行く用意をいたしましょう」
「えぇ。ルーチェ、ありがとう」
「本当ならば、今日からお嬢様も王立学院へと入学するはずでしたのに」
「はぁー……大丈夫よ。2年後にはちゃんと入学するから。行く意味ないし、行きたくないところだけど」
「ですが……」
「そんな事より、早くあの品を作成してもらわないとね! 今日は、なんていい日なのかしらっ!」
そう、小説を辿るならば……今の私は王立学院へ入学する年齢で、本日催される学院の入学式に参列していたはずなのだ。でも私は、2年後に飛び級試験を受けて最高学年から入学することにした。
何故かって? そりゃ、小説と違う人生を歩むためにだけど……。
それと、小説の中で一度だけ登場した武器があったことを思い出したからだ。
それは、最後にウィステリアを死に至らしめた物。――魔銃だ。
ルーフェルムと婚約したことで、当時の私はコツコツと小説の記憶を引っ張り出すことにした。といっても、あの胸くそ悪い小説の主人公が成り上がり令嬢だったために、私に都合のいい内容なんかはなかった。
思い出せることもそれほど多くはなかったんだけど、気になる点を書き出しながら考えた。がんばったわ、想像を交えながらだったけど。
そして記憶を辿ると、小説の中にウィステリアがレイバラム第二王子殿下の婚約者に選ばれた理由が書かれていたのを思い出した。
婚約候補者から婚約者になった大きな理由の一つに、ラジェリット侯爵家の財産がこの国一番だということが書かれていた。そして、勿論ラジェリット侯爵家の令嬢である私には、生まれたときからそれなりの資産が分け与えられているのだ。
それは、まだ手が付けられていない魔結石がゴロゴロ眠っている鉱山だった。
実は、私が小説の内容を少しずつ思い出していくと、今の王妃様が元は側妃様だったと知る。そして、彼女の実子はレイバラム第二王子殿下とリグレント第三王子殿下の二人だけ。ファビレック第一王子殿下は、崩御された前王妃様の子供だったのだ。
以上のことから、第二王子殿下を王太子にしたかった王妃様が中立派とラジェリット侯爵家の後ろ盾、ウィステリアの財産を欲した。王妃様が画策したことで、ウィステリアはレイバラム第二王子殿下の婚約者になったのだ。
――しかし、だ。
王太子となる直前に、レイバラム第二王子殿下はウィステリアに婚約破棄を言い渡した。それは、成り上がり令嬢がレイバラム第二王子殿下に媚薬を常時服用させて言葉を巧みに操ることで篭絡させ、ウィステリアの有責で婚約を破棄するように仕向けたからだ。
その後で、私から奪った鉱山の魔結石を使い銃を作り出した。たった一挺の銃を作るのに、レイバラム第二王子殿下は全財産を成り上がり令嬢に差し出したとも書かれていた。
レイバラム第二王子殿下の差し出した金額が、いくらだったのかは分からないが。私の手持ちで足りるかが心配で。ある程度の目標を立て、足りない分をコツコツ貯金していたのだ。その為、私のクロークルームはガラガラになり、母様に見られないようにコッソリ鍵を取り付けたのだが。
あっ、ちゃんと大事な物や高価な物は売っていないわよ! 質屋でもある程度の物しか引き取ってくれなかったし。ルーチェがさすがに持っていってくれなかったのよね――。
「ウィステリアお嬢様。着きました」
「随分小さな建物なのね」
此処に来るのに侯爵家の馬車で来店しないようにと言われていた為、王都に来る途中で裏ギルドが手配した小さな馬車に乗り換えた。
中心街に入って大通りを右折し、1台の馬車がどうにか通れるくらいの細い道を進む。
建物で日差しが遮られた道を進み屈折路を過ぎたところで馬車は停車した。
馬車を降りると屈折路に向かってルーチェが指を差す。その方向へ視線を向けると木造建ての小さな喫茶店のような店構えの建物が見えた。
「まさか、こんな場所に裏ギルドの事務所があるだなんて……」
「裏通りまで建物が続いているので、見た目と違って大きな建物ですよ。幼い頃は、裏通りで兄様達に仕事を貰いました」
「仕事? 幼い子供に?」
「えぇ。幼い子供だからですわ。浮気調査の尾行とか……兄様達では近づけなくても、子供なら近づくことが可能なので、会話を聞いてくる仕事ですわ」
「そんな事をさせられていたのね。って、いうか……子供にも用心した方がいいと勉強になったわ」
「ふふっ、そうですね」
そんな会話をした後で、私たちが店に向かって歩き出すと、店の扉が開き中から人が出てきた。
すれ違いざまにチラリと見れば、エメラルドのような瞳と一瞬目が合ったが、帽子で隠しきれないピンクゴールドの珍しい髪色をした可愛らしい令嬢だった――。
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