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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】
12/50

11 侍女と見えない影 1

お読み下さりありがとうございます。



 ――ルーフェルムと婚約してから約9年後。

 私は小説の未来を覆すために、地道に努力を重ねていた。



「ハァ、ハァ、……そろそろ時間になるわね」


 今朝は、雲ひとつない快晴の空の下で1時間。清々しい気分で早朝ランニングを終えた。

 雨の日と、体調が悪い日以外を除けば、毎朝同じ時間に起きて走るようにしてきたが。私ってば結構凄くて、何と6年以上も続けているのだ。


「スーハァー、スーハァー……ふぅー。汗だくだわ」


 体力作りのランニングを終えると、水分補給に厨房からくすねてきた真っ赤に熟したトマトを丸かじりする。その後で、搾ったタオルで汗を拭きさっぱりしたところでそのままナイフ投げの練習に入る。


 別に遣りたくて始めた訳ではないんだけど。私の人生を考えたら必要になるかもと思って始めたことだ。

 生き抜く為に気がついたことは、その時点から始めることにした。後から、やっておけば今が違ったのにと後悔したくないために。


 絶対に、日本人の平均寿命まで生きてやる。それが最近の私の目標。といっても、病気になったら仕方がないし、より長生きしたいとかは思っていない。

 ただ、殺されるのが嫌なだけ!……小説のような死に方をしたくない! 目指しているのは、殺されない為の体作りだ。


 今日も素晴らしい結果だわ! オーホッホッホッ……ケホッ! 


 たくさんある的の中心を、走りながら狙ってナイフを投げれるようになってから、まだ2年。色々な角度から投げられるようになってから、半年ってとこかしら。

 ここ何年間かの日記帳は、記録帳に変わったくらい日々努力している。

 あと半年したら、的を人の顔にして目を狙って投げれるようにしたいわね――。怖いけどっ。これも生き残るためだと思えばやるしかない。


「ウィステリアお嬢様ー! そろそろ戻ってきて下さーい。朝食の時間になりますわー」


 邸の窓から外にいる私に向かって叫んでいるのは、3歳年上の私付きの侍女のルーチェだ。

 編み込んだ栗色の癖毛に赤茶色のキリリとした瞳で、年齢より大人っぽく見え(あね)さんのような雰囲気を醸し出している。


「分かったわー」


 そんなルーチェは、街に買い物に出かけた際に私の財布を盗もうとしたスリだった。


 失敗した彼女を問いただせば、貧民街で沢山の血の繋がらない弟妹がいるために盗みを働き命を繋いで生活をしていた。

 だからといって、盗みが許される訳では無い。貴族家の公女として私は彼女に、罰を与えなければならなかった。


 その為、我が侯爵領にある孤児院に話を通し、彼女が居なくなると生活が出来なくなる弟妹達を引き取ってもらうことにした。

 そして、罪を償わせる為に彼女に与えた罰は、我が侯爵家で住み込みの侍女になり働くこと。

 言葉遣いを直させ読み書きを覚えることから始まり、貴族の礼儀作法も短期間で学ばせた。

 吸収が早い彼女は、全ての事に興味を示し一度聞いたことはすぐに覚える。何でも熟す多才で万能な女性だった。


 きちんと覚え仕事が出来るようになれば給金を出すと約束してから5年以上経っただろうか。

 彼女への罰の期間は1年間だったのに。たまに孤児院にいる弟妹達にお土産を抱えて会いに行っているが、それ以外は貯金しているのだと言って彼女は親指を立てて満足気に笑う。


 日中は好きな事をして過ごせばいいのに、私の真似して体力作りをし、今では護衛騎士達の休み時間に一緒に剣を振り回すのが日課となっているようだ。


 ……そんなルーチェは、護衛より強い。うちの護衛を鍛え上げている侍女の姿を初めてみたときは、言葉を失ったほどだ。

 そしてその日の夜、私はルーチェの想いを知ることになったのだ。





『ルーチェ。ビックリしたわ。貴女は元からそんなに強かったのかしら?』

『元から体力はありましたわ。人の物を盗むには、気配を消さなければならなかったし。毎日、飢えという敵と戦っていましたからね。生きるためには何でもしました』

『け、気配を消す……って、何処で教えてもらったのよ』

『んー。裏ギルドの兄達ですよ。これ、秘密ですからね』

『裏ギルド?……兄達って、ルーチェに兄様がいるの?』

『実の兄ではありませんよ。たまに面倒を見てくれる人達を兄と言っています』

『そう。でも、剣やその動きは?』

『大好きな彼ですわ。いつも見えないので、毎日見えなくても語りかけていたら返事が返ってくるようになったのです。今では、夜中に彼と仲睦まじい時間を過ごしておりますの』

『ガタンッ』

『ま、まさか……あれ?』

『そうですわ。秘密ですよ』


 天井からした物音に向かって指差すと、ルーチェはニヤリ顔で頷いた。


 なんとなくだが、私も気がついてはいたのだ。いつも誰かに見張られていると……。


『……あれは、私を監視しているのでしょう?』

『違いますよ? 護っているのです』

『侵入者の(たぐい)とかじゃなくて?』

『違いますよ。そいつらをこの邸に近づかせないために居るのです』

『うちの影ってこと?』

『違いますよ。この邸で影を雇ってはおりません』

『じゃぁ、あれはどこの影?』

『そんな事、教えられません。お嬢様が安心出来るように私から言えることは、彼はお嬢様を護っています。ひとつは、王家から。2つ目は、その他の敵から。最後に……あっ、これが一番目だったかも……』

『最後だけど一番目だったって、何?』

『変な虫がつかないようにです』

『ガタンッ』


 侵入者を近づかせないって聞いた時点で、なんとなくだが気がついた。だからこそ、敢えて最後まで聞いてみたのだが。……さすがルーチェだ。全て暴露してくれるとは。


『今すぐ、わたくしの前に姿を現しなさい。できなかったらルーフェルムに言って、貴方をバードゥイン公爵家に突き返しますからね』


 そう言ってからお茶を飲み始めると、ベッドの天蓋カーテンが揺れた。

 窓も閉めっきりで風もなく物音もしない部屋の中で、彼が自分で自分の居場所を報せたのだ――。



誤字脱字がありましたらごめんなさい。

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