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不本意ですが、サイコ野郎(公爵)の嫁になります〜いっそのこと飼い慣らしてみようかと〜  作者: パル@悪役令嬢彼に別れを告げる【アンソロ発売中】
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10 未来への計画 3

読み下さりありがとうございます。

幼少期、この話で終わりです。


 ルーフェルムが剣を握り直すと彼の背中でぷるぷる震えながら隠れていた私は、殺気を放っている人物がそろそろ現れるかと思うと生唾を飲む。


 それと同時に、大きな声で私の名が呼ばれた。


「ウィラー!」


 前方から聞こえた声に、つつつ……と彼の背後から顔を出して見てみれば――。

 一つに束ねた長い金の髪を揺らし、こちらに向かって来るゼフォル兄様の姿が見える。


「あっ、ゼフォル兄様だわ」

「……えっ? ウィラの兄上?」

「うん。そうよ。私より6歳年上の兄様よ。中等学院から帰って来たのね」

「ふぅーん。とりあえず仕舞うか。カシャッン」

 彼の言葉の後に、手に持っていた剣が一瞬で消えた。……手品じゃないよね。後で種明かしを聞かなきゃだわ。



 西日に照らされた若草色の瞳をキラリと光らせ、ゼフォル兄様は見慣れた制服姿でずんずんと近づいてくる。


 ……何かあったのかしら? ゼフォル兄様は、早歩きでこちらに向かっているようだけど。

 でも、ルーフェルムは『殺意に近い殺気を放った者……』って、言っていたわよね。


 近づいてくるゼフォル兄様にもう一度視線を向ければ、直ぐそこまで来ている兄様の表情に首を傾げる。


 こちらを睨み見る目は据わり、般若(はんにゃ)のような凄味のある表情をしているのだ。一体、どうしたというのだろうか。


「ゼフォル兄様、おかえりなさい」

「あぁ。ウィラ、ただいま。ところで、四阿で男と二人きりで居るとはどういう事だ?」

「あっ、紹介するわね。彼は、私の婚約者になったルーフェルム様よ。……ルーフェルム様、私の兄のゼフォルリーグ兄様。二人とも、仲良くなって貰えると嬉しいわ」

「「……」」


 そう紹介したのに、二人は黙りで。彼らの表情に首を捻る。


 ……なぜ睨み合ってんの? 紹介し終わったんだから、互いに挨拶し合いなさいよ。


 そう思うも沈黙は続き、このままでは全く仲良くなりそうもない様子だ。


 理由は分からないが、この痛々しい雰囲気に私は我慢ができず、年下のルーフェルムに先に折れてもらうことにしようと思うと、私は仕方なく彼の手を握った。

 空いている方の手を彼の耳に当て『ルーフェルム、兄様に自己紹介してくれる? 仲良くして欲しいの』そう小声で囁くと、ゼフォル兄様の目が大きくカッと見開かれた。


「うっ。ウィラ! な、何て破廉恥な――」


 そう言って、今度はゼフォル兄様がぷるぷる震え出す。だから何……だ。こっちは、将来の生死がかかっているのだ。仲良くしてよ、お兄ちゃん。ガキンチョ相手に睨みをきかせるだなんて恥ずかしいよ、お兄ちゃん。

 重要人物を先に味方に付けるのは、当然のことだろうに。


 私が呆れたように深いため息を吐き出すと、ルーフェルムはゼフォル兄様に向けている表情を笑顔に変えた。


「はじめまして、ウィラの婚約者となったルーフェルム・バードゥインと申します。二人きりではなく、うちの護衛の者も近くに三人配置しております」

「はぁー? 護衛は数に入らん! それに、ウィラだと? もう愛称で呼んでいるのか?」

「お母様も先ほどまで一緒に居たのですわ。そのときに、お母様が愛称で呼んであげてほしいとルーフェルム様にお願いしましたの」

「何? 母上が……お願いした? と……」

「えぇ。ゼフォル兄様とも仲良くして欲しいと言っていましたが……私も仲良くなって欲しいです。だって、将来ルーフェルム様は兄様の義理の弟になるのですから」


 私がそう言えば、ゼフォル兄様は「チッ」と小さく舌打ちをし、まだ納得はしていないと言いたげな態度でルーフェルムに向き直った。


「あぁ。そうだな。……ルーフェルム君、挨拶が遅くなって申し訳なかった。ウィステリアの兄のゼフォルリーグだ。これから宜しく頼む」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 右手を差し出したゼフォル兄様の手にルーフェルムが手を重ねる。

 最初からそうしてくれればよかったのに、なんとも手間がかかる二人だこと。

 お互いにやっと笑顔で挨拶ができたと胸を撫で下ろす。……目が笑っていないが。とりあえず、今はこんなもんだろう。


「じゃぁ、3人で応接室に行きましょう」

「そうだな」

「あっ、ちょっと待ってて」


 テーブルの上にあるルーフェルムからの贈り物の箱の中に布とピアスを仕舞い、蓋を戻してリボンを手に持つ。


「お待たせ」

「ん? その小さな箱は?」

「じゃーん! ルーフェルム様からのプレゼントよ! 見て」


 ゼフォル兄様の目の前に腕を出し、手首を回してブレスレットを自慢する。


「日差しを当てると……ほらっ、薄っすらとブルーに光るの! 綺麗でしょう。私の宝物にするわ」

「あぁ、綺麗だな」

「えっ?」


 驚きの声を上げたのは、ゼフォル兄様ではなくルーフェルムだ。


「どうしたの?」

「ウィラが俺のプレゼントを宝物にするって」

「だって、ルーフェルム様からの初めての贈り物だもの」


 私の言葉に照れたような仕草をするルーフェルムの肩に、ゼフォル兄様が手を置く。


「じゃぁ、ウィラから贈られる初めてのプレゼントをルーフェルム君も宝物にすればいいんじゃないか?」

「ウィラからのプレゼントか……楽しみだ」


 自然に口からその言葉が出てしまったのだろう。ゼフォル兄様は、言わなきゃ良かったといった感じの表情を見せたが、なんだかんだいっても兄様は優しい人だ。

 ルーフェルムも今のゼフォル兄様の言葉に、何か気づくものがあったのだろうか。彼の瞳に温かさが戻っている。


 ……そうね。私からのプレゼントか。貰うだけ貰っておいて、私から贈るという発想が浮かばなかったわ。ゼフォル兄様、さすがね。


「ふふっ。じゃぁ、楽しみにしていてね」

「ウィラの色がいい」

「分かったわ!」

「おいおい。二人は昨日知り合ったばかりだろう? どうしたら、こんなに早くラブラブモードになるんだ?」

「はぁ? ゼフォル兄様、最低。ラブラブとか卑猥(ひわい)なこと言わないでよ」

「何処が卑猥なんだ? さっきは、あんな破廉恥なことをしたくせに。妹が俺の知らぬ間にもう結婚したのかと、ひやひやしたんだぞ!……じゃぁ、仲良しってことだな?」

「そんな感じね。今は――」


 そうだ、ルーフェルムがどのタイミングでサイコパスになるかも分からないのだ。これから餌付けをして少しづつ手懐(てなず)けて行かなきゃならないし。


 毒の事といい、兄様を刺客と間違えたときの様子を思えば、それだけ彼は狙われているって事だろう。小説でウィステリアが殺されたのも、彼の妻だったからだ。


 そう考えてみれば、小説と違って私はルーフェルムの婚約者になった訳だから、死期が早まったのかも知れない。今を考えてみても、過去を思い出してみても、ここから先は未知の世界だということだ。


 ルーフェルムを変えるだけじゃなく、今後の私自身も変わって行かなきゃいけないと、今日は勉強になった一日だった――。






誤字脱字がありましたらごめんなさい。

m(_ _;)m

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