9 未来への計画 2
お読み下さりありがとうございます。
次の話(10話)で幼少期の話が終わります。
なんとなくだが、今の段階ではルーフェルムが小説の中の人物のように成長するとは思えない。
それに、私もだ。昨日の私と今の私のルーフェルムへの気持ちがこんなに変わるとは想いもしなかった。
やはり、今後はルーフェルムを餌付けし飼い慣らしていくことで脱サイコ野郎を目指していく方針で固めていこうと思う。
そしてあわよくば、主人となった私を助ける人間に育ってくれると嬉しいな。それには――。
「……出来ることからコツコツと――」
「何を?」
「あっ。口に出してた?」
「ハハッ。ウィラの母上が居ないときのウィラの方が自然体で、俺は好きだな」
「……ルーフェルム様? あ、貴方……笑う事も出来るの? 絵になるわね」
「馬鹿にしてんのか?」
「違うわよ! 笑った顔がめちゃくちゃ良かったからよ!」
「……そうだった、俺の容姿が神々しいって言っていたもんな」
「……俺様みたいなところは嫌いだけどね」
その後で、見様見真似で私が初めて淹れたお茶は、色が……泥水のようで……。
「飲むから渡せよ」
「無理よ。こんなの飲ませられな……い……あー、飲まないでー!」
自分で淹れたカップの液体に目を点にしていると、ルーフェルムがカップを手に取り口を付ける。
「あ、あ、あー」
「苦いな。次からは薄くしてくれ」
表情が変わらない彼の顔に安堵すると、私もそれを口に含んだ。
「にっ、苦ーい!」
とても口にできるようなものではなかったのに、彼の前には空になったカップが置かれていた――。
四阿に来たときは、太陽の日差しが真上から降り注がれていたのだが、思いの外ルーフェルムとの会話は楽しく心地良い時間を過ごしていたらしい。気がつけば太陽は西に傾き四阿の中にまで日差しが届き始めていた。
「そろそろ、応接室に戻りましょうか」
「あぁ。その前に、渡したい物がある」
そう言って、ルーフェルムはジャケットの内ポケットに手を入れると小さな箱を取り出した。
「手を出して」
彼の手から私の手のひらに載せられたそれは、赤いリボンが付いている。
なにこれ? これってプレゼントよね?
「くれるの? 開けてもいい?」
「あぁ」
リボンを解き箱の蓋を開くと、透き通った青黒色と灰色の石が嵌め込まれているピアスが入っていた。
「……ピアス?」
「全ての色が好きだとウィラが言ったあとに、何色でもいいんだなって聞いただろう。だから母上と相談して、俺の髪色や瞳の色に近い色を探して作ってもらった」
「凄く綺麗なグレーね。日差しが当たると……ほら、分かる? 薄っすらとブルーに光るわ」
「スピネルっていう石らしい」
「黒く透き通った石も……ほら、薄っすらとブルーに光ってる」
「だから、スピネルっていう石なんだって……聞いてんのか?」
「聞いてるわよ……でも……」
「なんだよ。何色でもいいんだろう? まさか、俺の色じゃ嫌だとか、今更言うのか?」
「違うわよ、ピアスの穴……開けていないから。今、着けたところを見せられないわ」
「……なんだよ。そんなことかよ」
「そんな言い方しなくたっていいじゃない」
テーブルの上に置いたピアスが入っていた箱をルーフェルムが手に持つと、敷かれていた布を外し中から同じ石が交互に並べられたブレスレットを取り出した。
「これなら……今、着けられるだろう。手をだして――」
仏頂面で私の手首にブレスレットを着けてくれる姿に感激する。細かい作業も出来るだなんて、剣を振り回すよりカッコいい。……実際、そんな姿を見たことはないが。この頃の彼は、世話を焼くこともできるらしい。
「よし、着けたぞ」
うっ、不意打ちだわ。心臓に悪いのだけど。……なに、なに? これって狙ってやってます? 上目遣いがナイスすぎですよ!
子供のくせに、今からこの色気とは。今更だけど、顔だけは小説で語られていた美貌の持ち主で良かったと、ルーフェルムの美しさにうっとりする。
……あれ? でも、描写通りじゃないかも? ウィステリアがルーフェルムと結婚するときに初めて見た彼の容姿は、確か白銀の髪色と書かれていたような。
あぁ、違うわね。そうだわ、ルーフェルムが戦争に出征した後……帰って来てからの彼の容姿がそれだったんだ。って、ことは……この後で彼は戦争に行くのよね。長い年月だったとだけは記憶しているけど。
多分、戦争から帰ってきたら今のルーフェルムではなくなっているのかも知れない。だって、ウィステリアとルーフェルムが結婚するときには彼の噂がいいものではなかったのだから――。
「おい、聞いているのか?」
「えぇ。聞いていますとも。……ありがとう」
そう言って、にっこり微笑むとルーフェルムは急に立ち上がり私に背を向けた。
「……ルーフェルム様?」
「ウィラ。そのまま静かに……」
『殺意に近い殺気を放った者が近づいてくる』
静かにするようにと言った彼は、続けて小声で凄い事を告げてきた。
……殺意に近い? ここで? って、どうして見えていないのに放たれた気だけで分かるの? いや、放たれている気が分かるの?
『そろそろ来る』
『シュッ』
「ヒィッ」
ちょっと、どこから剣を出したのよ! 一瞬過ぎて、分かんなかった。……って、マジ本物? これ現実よね? 信じられない……めっちゃ怖いんですけどぉ―――。
……っていうか、ルーフェルムって私より2歳年上なだけよね? つまり、まだ8歳なわけだ。 8歳のガキンチョがこんな危ない物を振り回すとか、こんなの可怪しくないか? 原作者、年齢設定間違えてない?
でも、それよりもヤバいのは……。こんな姿を見たらこのままキレッキレのサイコ野郎になるのは、疑いようがないわ。……させてなるもんか! こっちは命がかかってるんだから!
……ん?……でも、待って! ルーフェルムが強くなきゃ、私が刺客に襲われるときに助けられないんじゃない? サイコは嫌だけど……ってことはよ、ガンガン強くなってもらわなきゃ……なのよね。よし、それならば―――。
「ルーフェルム様! 手加減せずにガンガンやっちゃいなさい!」
……全力で応援するしかないわ!
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