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もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜  作者: 四片霞彩
ニューヨークと三年振りに会う夫

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第17話

 若佐先生の自宅と若佐先生が所属する事務所の場所はあらかじめ調べておいた。

 事務所の名前は緊急時の連絡先として、三年前、若佐先生がアメリカに行く直前にスマートフォンにメッセージを送ってくれていたので、メッセージ履歴を遡って探した。

 どうやら、自宅はセントラルパークの近くにあり、事務所はそこからバスで少し行ったところにあるようだった。せっかくなので、私もセントラルパーク近くのホテルを予約していた。日本にいる間に予約を済ませているので、後は夕方にチェックインするだけであった。


(若佐先生、どうしているかな……)


 会って事情を聞きたいという想いと、会うのが怖いという、二律背反する感情が胸の中で渦巻く。

 何の説明もなく、急に離婚届を送ってきたという事は、現地で新しい恋人を見つけた可能性もある。それなら、尚更、日本に住んでいるはずの私が会いに行くのは迷惑になるかもしれない。

 たまたま、若佐先生に拾われて、一時的に契約結婚をしていただけの私が訪れるのは。


(急に行ったら迷惑かもしれない。でも、あらかじめ連絡したら避けられるかもしれないし……)


 窓から移り行くニューヨークの街並みを眺めながら考える。

 今回、私がニューヨークを訪れる事については、若佐先生には何も連絡していなかった。もし日本で一緒に暮らしていた頃、若佐先生が意図的に私を避けていたのだとしたら、あらかじめ連絡する事で若佐先生が避けてしまうと考えたからだった。

 そうなってしまったら、あえてニューヨークまで来た意味がない。

 若佐先生の事を知って、助けてもらった恩を返して、納得のいく形で離婚する為にも、私は若佐先生と向き合い、若佐先生にも私と向き合ってもらわなければならない。

 何も若佐先生は私に恩を着せる為に助けてくれた訳ではないだろう。

 これはただの私の我が儘。私がこの四年間の契約結婚の日々に意味を見出したいだけ。

 ほとんど夫婦らしい事は何もしておらず、そもそも会話さえもほとんど無く、すれ違っていただけの形だけの夫婦の日々。

 そんな日々が無駄では無かったと思えるようにしたいだけ。

 こんな言い方をすると、若佐先生に恩を仇で返している気もしないでもない。ほんの僅かに、罪悪感に苛まれる。


(でもここで若佐先生に会う事を諦めて、日本に帰って離婚届を提出して他人に戻っても、きっと後悔する。若佐先生に何も出来なかった事、若佐先生の役に何も立てなかった事……)


 ニューヨークまで押しかけてきた事について、若佐先生に何を言われ、何をされても、私は我慢すると決めている。

 絶対に、怒らず、泣かないと――。


 旅行本を読んでいると、車内アナウンスで次のバス停留所の名前が案内された。音が悪くはっきりとは聞こえなかったが、聞いた事があるような気がして顔を上げる。

 私は旅行本にメモしていた降車予定のバス停留所名と車内アナウンスの内容を比較する。自分が降車予定の停留所だと気がつくと、降車ボタンを探してあちこちをキョロキョロと探してしまう。

 すると、後ろに座っていたキャリアウーマンらしき若い女性がクスクスと笑いながら、窓にぶら下がっていた黄色い紐を指差したのだった。


(そうだった……! アメリカは日本のバスとは違って、降車ボタンじゃなくて、紐を引っ張るんだった……!)


 恥ずかしさで耳まで顔を赤くしながらも、傍らの窓に下がっている黄色い紐を引っ張る。

 紐が固いのか、なかなか引っ張れず、停留所を行き過ぎてしまうかもしれないと焦ってしまったが、ぐっと力を入れると、バス前方に「STOP」と書かれたランプが点滅したので、ようやく一安心出来たのだった。

 バスが停留所に着くと、先程のキャリアウーマンらしき女性に小さく頭を下げて、他の乗客に続きながらスーツケースを持ってバスから降車する。摩天楼と呼ばれているだけあって、周囲は高層ビルが立ち並び、人の往来も多く、車もひっきりなしに走っていた。丁度昼時だからか、道端に停まる移動ワゴン車の前には数人が並んでいた。

 英語が苦手な私はなるべく手元のスマートフォンと標識だけを見て、声を掛けられないように移動ワゴン車や屋台に並ぶ列の後ろをすり抜けて、若佐先生が所属しているという事務所に向かったのだった。



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