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動乱群像録 84

「烏丸はんは自決されたか……」 

 明石はのんびり自分用の通信端末の画面を開いてコーヒーを啜っていた。すでに残党部隊もほぼ投降し、アステロイドベルトは穏やかさを取り戻しつつあった。こうしてのんびりと自室でくつろぐのも明石には新鮮に覚えた。

 その時扉をノックする音が響く。

「開いとるよー」 

 間抜けな明石の声を聞くと現れたのは別所だった。難しい顔をしながらベッドに座って端末を見ている明石に笑いかける。

「ほんまに笑顔の似合わんやっちゃな」 

「余計なお世話だ」 

 そう言うと別所は明石の見ている画面を覗きこんだ。

「胡州本星も一件落着か」 

「そないに簡単に行くと……」 

「思っちゃいないよ」 

 別所は苦笑いを浮かべながら明石の執務机の椅子に腰掛ける。

「清原候は濃州で銃殺。安東大佐は部下の秋田さんに裏切られて自決。そして烏丸公も……」 

 別所の言葉に明石は諦めたように端末のスイッチを切った。死には慣れていた明石だった。人間魚雷を搭載した輸送艦で出撃を待つ日々にも次々と戦友は消えていった。その後、芸州で闇屋を始めたときもつまらない理由のトラブルや横領品の奪い合いで同業者があっさりと殺されるなんてこともよくある話だった。

 そして今、軍人としてかつて戦うことを想定もしていなかった内戦を戦って見せた。

「こないにたくさん人が死んで……誰が得する言うんやろな。ほんま人死にはええ加減飽きたところや言うのに」 

「これからも出てくるぜ……西園寺さんが天下を取っても特に変わることなんてないからな。すぐに民衆に飽きられてまた軍部が台頭するだろうな。結局人間なんてそんなもんだよ……悲しいけどな」 

 別所が即答するのに明石は驚いて目を向けた。自分などよりははるかに艦隊司令赤松忠満の覚えが高く色々と動き回っていると言う噂の別所の言葉だけに重みがあった。

「そら……面倒やな」 

「なあに。面倒ごとを処理する為にこの世はあるのさ。面倒ごとがなくなったら人間の存在理由なんてなくなるんだ」 

 奇妙な詭弁を弄する別所に諦めたような表情で明石は剃りあげられた頭を掻いていた。


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