動乱群像録 70
「対空防御能力が30パーセント低下!」
「『多摩』と『天竜』の艦載機を左翼から展開!『筑波』も準備させてんか?」
赤松の言葉を聞くとすぐにオペレータは作業を開始する。
「相手は安東貞盛。耐え切れますかね」
副官の笑みが赤松にも伝染してくる。
「まあ貞坊は真面目やからな。ちゃんと仕事はする……ええパイロットや」
「敵を褒めるんですか?」
笑顔の赤松にちらりと目をやる長身の参謀。艦隊司令の椅子で赤松はただ楽しそうに目の前のモニターを眺めている。
「敵やなんて思うとらんで。アイツはいつだってワシのダチや」
「そうですか」
副官がそう言ったとたんに振動が第三艦隊旗艦『播磨』を襲う。
「第三艦橋に直撃弾!被害を確認します」
オペレータの焦った声を聞いても平然としてモニターから目を離さない赤松。
「あそこは今は無人やからな。安心できるわ」
「しかしこれだけ無人化ができるとなると我々も必要なくなるんじゃないですかね」
旗艦『播磨』には実は整備員とブリッジクルーしか乗船していなかった。対空防御機能はすべてブリッジからの操作で起動するように設定し、レーダーなどの機材も他の艦からの情報を集めると言う形でクルーを他の艦に載せ換えての戦闘である。
「ですがもうそろそろ気づくんじゃないですかね。安東君も馬鹿じゃない」
長身の参謀の助言に大きく頷くと満足そうに赤松はモニターの中に映る友軍機を次々と葬る赤いムカデの絵の書きなぐられた五式、安東貞盛の機体を見つめていた。