動乱群像録 67
「左翼に明らかな裂け目を作って……貞坊なら間違いなく食いつく。ワシも人が悪いねえ」
ブリッジで各部隊の戦闘の模様を見ながら赤松は笑みを浮かべていた。敵の本隊の数に押されているもののすべてが赤松の予想した通りに展開していた。左翼にわざとこの旗艦『播磨』を囮として展開すれば気の短い安東は自ら出撃して沈めにかかるのはよく分かっていた。
中央の艦隊が先に艦載アサルト・モジュールを使い切るように出撃させたのは敵の揚陸艦にはろくな対艦兵器が搭載されていないことを見込んでの行動だった。状況はアサルト・モジュール部隊が補給のために引き返したところで主砲の一斉掃射を行なうことで敵艦を撃滅するというシナリオどおりに話は進んでいる。そして後方でこの旗艦『播磨』目指して進んでいる佐賀高家の泉州艦隊には戦意が無いこともすでに明らかだった。
「陸軍はやはり所詮は大気圏内の軍隊ですな」
眼鏡の参謀の言葉だが赤松は油断をする気はさらさら無かった。
安東の部隊は確かに現在この『播磨』の艦載機部隊を指揮している別所晋一のおかげで何とか安東隊と互角な戦いを展開している。だがそれがいつ崩れても不思議でないことは赤松が一番よく分かっていた。安東の暴走を誘う為に護衛の艦は巡洋艦が二隻。しかも旧型の巡洋艦には各三機のアサルト・モジュールしか搭載ができず、しかも最新式の三式ではなく急場しのぎの97式改だけという有様だった。
『後は若いのが決めてくれるんちゃうのん?』
会議の際に赤松のその一言でこの奇策は実行に移された。
「佐賀さんがどう動かれるかですな」
参謀の一人の言葉に艦隊司令の椅子に座って頬杖をついて眺めている赤松。
「人の手柄を当てにして作戦を立てる……ワシも小さな男やなあ」
そう言って見せた赤松の頬に笑みが浮かんでいることは周りの参謀達には気づかれることが無かった。