動乱群像録 66
「なんだ!」
安東は後方に気配を感じてレーダーに目を移した。目の前のかなりのやり手のパイロットの操縦する三式相手に手間取っているところに敵は増やしたくなかった。
『任せてください!』
若い声が響いた。本来なら止めるべきところと思ったがそれどころではなかった。
『俺も焼きが回ったか……』
目の前の赤松家の家紋の左三つ巴にニ引き両のレーザード・フラッグの三式にはまるで隙が無かった。明らかに大戦を生き延びた古強者の風格がそこには見て取れる。
「第四中隊!そのまま前進して退路を絶て!何とか時間を稼ぐんだ」
安東の言葉に後方で待機していた駆逐アサルト・モジュール部隊と旧式の97式改で構成された予備戦力が動き出した。
「目の前にとらわれるか全体を見れるか。相手のパイロットの技量が分かるな」
至近距離となりレールガンを投げつけてサーベルを抜く敵パイロットの思い切りの良さに感心しながら安東は笑みを浮かべていた。
『駄目です!側面から狙撃され……ウワ!』
突然の通信に安東にも冷や汗が流れた。そしてある程度の技量の目の前の部隊長らしいパイロットがここにいて安東の相手をしていたのは戦力を迂回するだろう安東の作戦を読んでいたことに気がついた。
「そのまま最大速度で突っ切れ!敵艦の射程まで届けば動かなくなる!」
そう叫ぶのが精一杯だった。すでに二合斬りあって相手が自分とほぼ互角の腕前だと気づき、そしてその機体に左三つ巴のエンブレムがあるのを見つけると安東は笑みを浮かべた。
「さすが海軍教導隊の切れ者別所晋一ってところか?」
安東の頭はすでに部隊指揮官としてでは無くパイロットの意識に切り替わっていた。