動乱群像録 64
「予定通り羽州分遣艦隊が第三艦隊左翼と衝突しています」
ブリッジではなく会議室に並ぶ清原派の参謀達。モニターを眺めていた士官の言葉に静かに清原は頷いた。
「佐賀君はどうかね?」
眼鏡の参謀はそうつぶやいた清原に渋い顔をした。
「現在一部艦船にトラブルが発生したとの連絡を受けています。そのせいで予州と肥州の同志が到着するのが遅れるらしく……」
「邪魔をしに来たのか!高家は!」
恰幅のいい参謀が机を叩く。戦場を映し出すモニターには主力が現在アステロイドのデブリの薄い右翼に展開しながら第三艦隊を包囲しようとしている様子が映っている。
「まあいいじゃないか。敵からの砲撃は無い……これなら我々の勝利は確実だ」
「そうかな?」
笑顔を浮かべていた頬に傷のある佐官の言葉に清原は首を振った。
「ですが……すでにアサルト・モジュールの展開が始まった以上あちらも砲撃戦を避けてくるのは間違いないかと思うのですが……」
「推論でものを言うものではないね。相手は赤松君だ。奇策を何か使ってくるかもしれない」
そう言うと手元のボードを捜査してモニターに赤いラインを引いた。デブリが比較的薄いライン。間違いなくそこにすでに第三艦隊のアサルト・モジュールが展開していてもおかしくない場所だけに参謀達は清原の考えにため息を漏らした。
「このラインの制圧をしてから艦船を突入させようじゃないか。障害物がなくなれば数の違いは間違いなく彼等を絶望させることになる」
清原の笑みに参謀達は感服して会議室の張り詰めた空気は少しずつ緩んでいった。