動乱群像録 62
「左翼を崩せばそのままアステロイド越しの戦いになる。各員アサルト・モジュールは無視しろ!狙いは船だ!」
小さなデブリをかわしながら進む真っ赤なムカデの描かれたアサルト・モジュール『五式』。その搭乗者は『胡州の侍』の二つ名の安東貞盛。続く部下達の機体と同じくレイザード・フラッグは赤い色の『扇に鷹の羽』。
『あちらも播磨から一個中隊が出撃した模様です』
オペレータのデータを見ながらヘルメットの下の安東の顔は笑っていた。
「別所晋一、魚住雅吉。どちらも学徒兵上がりだが凄腕だからな。期待させてもらおうか」
安東の顔はかつて地球軍の猛攻を生き延びた戦士の顔に変わっていた。
『ようやく清原艦隊からも攻撃隊が出ました』
そんな言葉に安東は眉をひそめた。
「遅すぎるな……デブリ越しの砲撃戦を主体とした艦隊戦なら勝ち目は無いぞ」
部下達に聞こえないほどに小さくささやく。そんな安東の見る先にはいくつもの揚陸艇から光となって宇宙に散る友軍機が見えていた。
『隊長!望遠距離での射撃が可能な地点に到達しました!』
新型駆逐アサルト・モジュール『火龍』部隊の隊長から声がかかる。
「とりあえずけん制射撃を頼む」
再び自分の部隊の指揮に集中する安東。
後方からレールガンの強力な火砲が点にしか見えない敵部隊に撃ち込まれる。それでも散開もせずに第三艦隊からの機体は突入を続けてきていた。
「度胸は十分か。学徒兵とはいえ舐めたら痛い目にあいそうだな」
自分の中のパイロットとしての自負に火がともる。すでに安東は一戦士として敵部隊に突入する覚悟を決めていた。