動乱群像録 60
「羽州艦隊が突出し始めました、左翼に展開する模様です」
情報士官の言葉に赤松は静かに頷いた。第三艦隊旗艦『播磨』のブリッジ。彼の座る艦隊司令の椅子の前には近辺の宇宙の海図が浮かび上がっていた。
「貞やんも苦労症やなあ。清原はんは動き出したばかり……孤立しても知らんでほんま」
苦笑いを浮かべる赤松の余裕は他の参謀達の厳しい表情とはまるで違った色をかもし出していた。
「ですが本隊が到着すればこちらは倍の敵を相手にすることになりますが……」
「倍?」
眼鏡の参謀の言葉に不思議な生き物を見るような表情で見つめる赤松。
「佐賀高家候をお忘れですか?」
うろたえてそう答えた参謀の言葉に赤松は笑い始めた。次第にその笑い声は大きくなり、周りの参謀達はお互い顔を見合わせて上官の奇行を眺めていた。
「あの御仁にそないな度胸は無いんとちゃうか?確かに貞坊が動き出してから慌てて展開を始めたが……邪魔になるだけやてあれじゃ」
清原の陸軍揚陸艇の群れの後ろに展開する佐賀の泉州艦隊を指差す赤松。だがそれだとしても戦力では清原達『官派』が上回っていることは誰もが知り尽くしていた。
「こちらは訓練ですべて阿吽の呼吸で動ける一個艦隊や。それに対してあちらさんは寄せ集めの烏合の衆。負ける要素がどこにあんねん」
周りを見回す赤松。その目の前の羽州艦隊に赤いランプが光る。
「羽州艦隊!アサルト・モジュールが発艦した模様です!」
オペレータの声に赤松は頷く。そして目を左翼の艦隊のしるしに向けた。
「これは出てやらなあかんな。うちのアサルト・モジュールを全部当てたれ」
それだけつぶやくと赤松はニヤリと笑って椅子に寄りかかり伸びをした。