動乱群像録 57
「元気そうじゃないか」
営倉の中。後ろ手に縛られた士官が笑顔で歩いてきた醍醐の方を見るとそう言った。満面の笑み。敗軍の将とは思えないそのふてぶてしさに醍醐は戸惑うような笑みを向けた。
「池。これがお前の望んだ結末なのか?」
醍醐の言葉。そして長年にわたる同僚の背中に自分の息子がいるのを見て安心したように池は息を吐いた。
「なあに、これからだよ。これで貴様がどう思おうが決戦はすべて宇宙での激突にかかるわけだ。オマエこそ他人に運命を任せるって言う気持ちはどうだ?」
まるで勝者のような笑顔。ある意味醍醐もその表情の裏にある闇を知ることができた。
「今回の戦い。うちも戦死者は千人越えだ。わざわざそんなことをする必要は……」
「ああ、必要は無いだろうな」
池のその一言に醍醐は逆上したようにたちあがった。そして思わず右手を振り上げたところで部下達に押さえつけられた。
「おい、醍醐。お前は勘違いしているぜ」
逆上する同僚を見上げながら余裕の笑みを浮かべる池。その態度にさらに醍醐の怒りに火がつく。
「なにが勘違いだ!人が死んだんだぞ!命が消えたんだぞ!」
「ただ誇りは守られた……お前の部下も俺の部下も……違うか?」
その言葉はまたも醍醐の神経を逆なでした。それを察したように部下達は虜囚との面会がただ上官を怒らせるだけだったことに気づいて彼を取り押さえる。
「醍醐。お前と俺じゃあ何もかも違ったと言うことだ。俺は誇りをとり、貴様は命をとった。その結果がどうなるか……宇宙を見ながら観戦しようじゃないか」
部下達に押さえつけられながら醍醐は縛られているだけの池をにらみつけた。
池は暴れる醍醐を涼しげに見つめるだけだった。