動乱群像録 36
「ようこそ!軌道上コロニー豊州へ!」
大柄の髭面の男が小型シャトルから降りようとする清原の前に立った。清原は若干引き気味にテンションの高い大男を見上げた。正確に言えば決してその佐賀高家少将は長身と言うわけではなかった。清原が小柄なのは確かだったが、その見下すような視線から佐賀は大きく見えるように振舞っていた。
「ずいぶんと艦船を出す予定なんですね」
清原の脇から出てきた安東の顔を見ると佐賀は渋い顔をした。そして同時に安東も敵意の視線で佐賀と言う大貴族の肉の厚い顔をにらみつけた。
佐賀高家はあの嵯峨の分家に当たり、長く中絶していた本家を継げると信じて西園寺や烏丸に工作を仕掛けていた人物と安東も記憶していた。そして今回西園寺家の三男を本家に押し付けられた意趣返しにこうして大軍を率いて駆けつけて恩を売ろうと言う魂胆に安東は敵意しかもてなかった。
「そう言えば佐賀さん。弟さんは?」
口の悪い清原らしく聞いてはいけない話から切り出したのでさすがの安東もあわてた。佐賀の弟は現在宇宙に上がるべく手勢を集めて南極基地に進軍を開始した醍醐文隆であり、二人の仲は犬猿そのものであることは有名すぎる話だった。
「なるほど、清原さんは私よりも文隆を重視するとおっしゃるんですか?」
その言葉にさすがの清原も黙り込んで自分の口が滑ったことに気が付いた。周りの将校達もそこに漂う不穏な空気に黙り込んでいる。
「そうだ、新型の巡洋艦の開発の方はどうなっているんですかね?」
慌てて清原が切り出すがそれにまるで反応せずに佐賀はそのまま通路を反転して歩き始めた。安東は静かに清原の耳元に口を寄せる。
「あの男は小心者ですから。多少脅してやればいうことを聞いてくれますよ。まあ戦場に近づいてから算段を打ちます」
安東の言葉にようやく安心して清原は佐賀の歩みに従うように通路を歩き始めた。
「まあ任せてください。定員6割程度の第三艦隊に何ができるか……よく思い知らせてやりますよ」
「ずいぶんと自信をお持ちのようですね」
安東のその一言に佐賀は見下すように目を向ける。
「自信?事実を言っているだけですよ。確かに相手は海軍の猛者、赤松忠満。とは言えこちらも引けはとらない勇士ばかりです。まあ安心して頼っていただいてかまいませんよ」
「そうですか。それなら良いのですか……」
棘のある安東の言葉に気分を害したと言うようにため息をつくとそのまま先頭に立って清原を導く佐賀。その姿に違和感を覚えながら安藤はその後に従った。