菊池正義の供述
消防車や救急車それにパトカーが数台サイレンを鳴らして反対車線をすっ飛んで行く。
それを見送りながら俺は所轄の警察署に車を走らせた。
警察署の裏にある来署者ようの駐車場に車を止め、署内に足を運ぶ。
警察署の中はお盆初日の真夜中だというのに電話が鳴り響き、警察官が走り回っていた。
俺はカウンターに歩み寄りちょうど電話を受話器に戻した警察官に話しかける。
「すいません」
「はい、何か?」
「自首しに来ました」
「え?」
多数のパトカー消防車救急車のサイレンが鳴り響いて来ている方向を指差しながら話しを続けた。
「あれやったの俺です」
何をやったかって言うと、街の郊外を南北に走る高速道路、開通したばかりの頃は高速道路の両脇は果樹園や畑が広がっていたらしいが今は住宅街になっている。
その両脇が住宅街になっているちょうど真ん中辺が少し窪んでいるんだけど、その窪んでいる場所の上を横切る橋の上からお盆の帰省ラッシュでノロノロと走る沢山の車に向けて、ポリタンク2個のガソリンをぶち撒けてから火炎瓶を数本投げ落としたんだ。
ちょうど橋の真下付近にガソリン類を満載したタンクローリーが走ってたから、被害が拡大したんだろうな。
俺は直ぐに取調室に連行され取り調べられる。
「名前は?」
「菊池正義」
「きちく……「お巡りさんきちくじゃなくて、き、く、ち、だからな」
「すまん、それで動機は?」
「俺はね小説家になっちゃおうっていう小説サイトに小説を投稿してるんだ、下手くそであまり読んでもらえないけどな。
下手なのは自覚してるけど、やっぱり下手だって指摘されると頭にくるんだよ。
そんで最近筆が進まなかったんだけど、やっと書き上げた作品を投稿したらその作品に辛辣な感想を寄越した奴がいてさ、頭に血が登ってぶっ殺してやるー! ってなった訳なんだけど、そいつさ活動コメントで自分はトラックドライバーだって書いていたから、あそこの高速道路にガソリンぶち撒けたんだよ」
「それじゃ高速道路を走っていた車両の中にその相手がいたんだな?」
「否、多分いないと思うよ」
「え? どういう事だ?」
「だってそいつさ、以前他の作者さんとのコメントで、うちの県がある地方には行ったこと無いなーって書いてたからな」
「それじゃどうして! あそこで行ったんだ?」
「ウ~ン、誰でも良かったからかな?」
「だ、誰でも良かったって? お、お前! 今分かっているだけでも十数人の死傷者が出ているんだぞ」
「十数人? そんなもんじゃ無いだろ。
火炎瓶を投げた先には、帰省客を満載した夜行バスが数台あったから、数十人規模になるんじゃないのかな?」
「お前……」
「俺はさ期待してるんだよ」
「期待?」
「ああ、犯人は俺で動機はこれって発表されるとさ、多分、ネット民たちが寄って集って俺が書いた作品は此れで辛辣な感想を送ったのは此奴だ、って特定してくれると思うんだよ。
そんでさ、今の時代何故か? 加害者だけじゃなくて被害者も一緒に非難されてるときがあるじゃない。
ということはさ、もしかしたら俺の作品に辛辣な感想を寄越したアイツも、色々言われ後ろ指さされるだろうなぁって思うんだよね。
それに、生き残った被害者や死んだ被害者の遺族がさ俺自身に報復したいと思ってもさ、俺自身は自首していても十中八九死刑にされるだろうし、両親は死んじまってるし付き合いのある親族もいないし、親しい友人や知人もいないから俺に報復出来ないだろう。
その代わりとしてさ、俺の作品に辛辣な感想を寄越したアイツにさ鋒先が向くんじゃないかな? って思うんだよ。
そうなれば俺自身が手をくださなくてもアイツに危害が加えられるだろう。
それが俺の狙いなんだ」