東国の勇者の場合61
アルスレッドとリニアさんが何か見つめ合いながら、無言を貫いている。沈黙が流れる空間に耐えきることができなかった。
「とにかく、国王陛下に会うってことが決まったのなら、自分の処分も決まったってことですよね。」
「はいそれも決定しています。」
アルスレッドが答えてくれた。
「それは、アルスレッドさんも知ってるんですか?」
「はい、把握はしております。」
「じゃあ、どんなふうになったのか聞いてもいいですか?大枠だけでも知っておきたくて。」
「申し訳ありません。私の口からお伝えすることは固く禁じられておりますので。」
なんともつまらないものだ。そういった頭の硬さは治して欲しいものである。しかし、これから何も情報なしに自分の運命を決定づけられるのはいささか不安が残る。ユウマのように天命を素直に待てる性格ではないからなぁ。
無いものに憧れていても仕方がない。
「じゃあ、魔法の修行ができるかどうかは教えてもらえませんか。結構面白くて、ハマってるんですよね。」
「そのことでしたら、今後も私が携わり継続してゆくつもりです。」
良かった。それが続くなら今は御の字である。もしかの場合魔法自体を取り上げられる可能性さえあったのだから、それが続けられるのはとてもありがたい。
「ありがとうございます。魔力を使って色々試してみたいこともたくさんあるので、よろしくお願いします。」
なんとなく手を出してみた。
「こちらこそ、微力ながらお願いいたします。」
意味が伝わったのだろう。アルスレッドも手を出して握手に応じてくれた。
手を触れてわかる。筋肉質だがとても細く、女性のような手触りである。そこそこ重そうな剣を奮っていたので意外だったが、魔力を使えばそれも容易いということなのだろう。魔力や魔法といったものがどれだけ戦力に左右するかがわかると同時に、魔力の扱いがさほど上手くないリニアさんが伝説と呼ばれていることにも感嘆せざるを得ない。
「リニアさんも、戦闘訓練これからよろしくお願いします。」
アルスレッドとの握手をほどき、リニアさんの方にさっきとおなじように、手を出した。
「こちらこそよろしくお願いたします。」
リニアさんの場合は立ち上がって手を握り、一礼まで入っている。この人の礼儀正しさが出ているのだろうが、もう少しフランクに接してくれていてもいいのにと考えてしまうのはだめだろうか?それともこの人にとってのこれがフランクさなのだろうか。だとするならば少々やりずらい。
そんな考え事をしていると、リニアさんが、アルスレッドの方を見て少しニヤついている。そしてアルスレッドは何も気にしていないかのような不気味な笑みでリニアさんを見つめていた。
なんだか恐ろしい空気が部屋に充満し始めていた。