東国の勇者の場合60
「失礼致します、アルスレッドです。」
そう言ってあるスレッドが入ってきた。
表情は固く真面目な面持ちで入っている。今日の昼間に、自分の進退について国王に話を聞きに行くと言っていたばかりである。警戒というわけでもないが何かがあったと考えてしまうのが人間心理である。
「ケンマ様は、、、」
「すでに目覚められております。」
リニアさんはその言葉と同時に自分を制止するかのように手を顔の前に持ってきた。おそらく、リニアさんも何かを察したのだろう。
「ならば話がはやい。ケンマ様には一度お国王陛下にあっていただきたく、馳せ参じました。」
「今すぐにですか、、、」
「いえ、そういうわけではありません。日を改めての謁見という形で大丈夫です。」
「それを、、伝えに、、、、?」
「ええ」
その瞬間、アルスの顔が綻びを見せた。何か問題の起こった兵士の表情から、なんだか気の抜けた会社員のような表情である。
「少し腰かけても?」
リニアさんは少し怪訝そうな表情をしている。
「大丈夫ですよ。ベッドに適当に座っちゃってください。」
リニアさんの制止を振り切るようなかたちでアルスレッドをベッドへと促した。
リニアさんの戸惑いの表情が見え隠れしたが、気にせず座らせることにした。
「ありがとうございます。今日色々とこりまして、少し疲れていたもので。」
「ですが、ベッドの上に座るというのは、なさっていいことではないと思いますが。」
リニアさんの口調が荒々しくなってくる。
「これに関しては、ケンマ様からおっしゃっていただいたことなので、ご厚意に甘えるのが筋かと。」
アルスレッドも煽るかのように返してゆく。
「ですが、、、、、」
アルスレッドが静止した。
「それと、ご安心ください。私はシンパのものではありません。ただの戦士としてこの国に忠誠を誓うものです。」
その瞬間、空気が少し変わってゆくのがわかる。リニアさんもなんかを察したのだろう。
「わかりました。この場は納めるとしましょう。」
そう言って何かが収まった。とりあえず、この数分間自分はずっと置いてけぼりだった。