東国の勇者の場合57
戦いのゴングが鳴ったとでも表現するべきだろうか。静寂で溢れる訓練場に戦いの合図が鳴り響いた感化がそこにはあった。
リニアさんも同じように感じたのか、構えてこちらの様子をうかがっている。
というよりも、自分がどんなことを仕掛けてくるのかワクワクしながら見ている、そんな風にも見えてくる。さっき受け入れると言っていたが、まさかそういった所までとは思わなかった。
だとするならば、お望み通り、こちらから攻めさせてもらう。
まず自分がとった行動はその場での軽いステップだった。これは動きに瞬発力が出るためであるのと、今回のように動くのを待ってくれるような相手なら少し惑わせるくらいことはできるかもしれないと思ったからである。
そして、数回飛んでから着地をした瞬間に、重心を斜め前に落としながら、脚を曲げ、身体を倒してゆく。そして、倒れきる前に、つま先に魔力を集中して一気に地面を蹴り一歩前に出る。
『縮地法』
そう評される一歩は沖縄の古武術の先方のひとつとして用いられてきた。地面に落ちるかのように重心を移動させながら進むことで一瞬にして相手の目の前へと移動する方法である。
それはまさに、相手からしたら瞬間移動をしてきたかのような錯覚に陥るそんな歩行方法である。
しかし、今回はそこに魔力の力が加わり、普通は数歩かけなかればならない距離を、一歩で進むことができる。そのおかげで距離を詰める速度が桁違いになっている。受けた人間の体感としては一瞬にして目の前に瞬間移動した様に見えるだろう。
普通の人間ならば、、、、
今自分の目の前に立っているのは女性でありながら屈強な男たちを真っ向勝負で捩じ伏せていった伝説級の戦闘狂である。ゆっくりとなって行く世界の中で、リニアさんの眼が自分を追っているのを確認することができた。
しかし、体はまだついてきていないようで一ミリたりとも動いていない。ならばここに勝機が有るのかも知れない。正直なところし初戦でついたリニアさんのイメージにはこのくらいしか思いつかなかった。
だが運よく、リニアさんに隙を与えられそうである。あとは、着地した脚へと魔力を込めて、リニアさんの反応できない速度で体当たりを成功させれば、勝利することができる。
そして、蹴り上げた脚と逆の脚が今地面についた。
『運命の瞬間』と言ったところだろうか。
ここで決めなければま敗北は確定である。ならば今が自分の勝利できる最初にして最大にして最後のチャンスである。
膨大な魔力を脚先に込めて思い切り飛び上がる。その瞬間体を丸くして攻撃と同時に防御の体勢に入る。
『勝った!?』
そう確信したのも束の間、何かが左脇腹に強い衝撃を与えた。その後慣性の法則の力で思い切り右方向へと吹っ飛ばされた。
薄れてゆく意識の中でリニアさんが駆け寄ってくるのがわかった。
「申し訳ありません。反射的に力がこもってしまいまして。」
なるほど、反射か。無意識のうちに出てしまった手で実際なら対応することが出来ない速度に対応することができてしまったと言うことか。
感想戦をしながら意識が途切れた。