東国の勇者の場合56
訓練場に移動してきた。初日に訪れてはいたが、その時の印象と変わることなく、やはりここは少し空気の循環がなく熱が籠っているように感じる。
はっきり言ってここで何か良くない黒魔術的なものでも行われそうな雰囲気である。
だが、今回入った時には訓練が終わった後の様で誰もいなかったので前回の時よりもだいぶ過ごしやすくなっている。それが救いだった。
「なんだか、ここに来るのも久々な気がしますね。」
リニアさんが、ふとつぶやいた。
「リニアさん、こういった訓練とか好きそうですけど、来なかったんですか?」
訓練という単語に目を光らせるほどの人物であるならば、無理やりにでも時間を作って毎日来ていそうなものなのだが。
「そう、、、ですね、、」
一瞬言葉が詰まった。
「まぁ、端的に言ってしまいますと来たくても来れなかったということですね。」
「時間がなかったとか?」
「そのようなものです。」
なるほど、そんなにも忙しいのか、確かによそ者の勇者に着くというのは相当な仕事量なのだろう。
「ところでケンマ様、どうですかその訓練着。」
リニアさんが自分の着ている衣服について話を向けた。
この服は初日にここに来た時に訓練をしていた兵隊が着ていたもので、かなり動きやすく設計されている。衣服の素材自体も軽く、身体にフィットするように作られている。少し伸縮性があるので動くときも邪魔にはならない。
化学繊維でしか見たことないような材質だが、織り方なのだろうか、不思議なものである。
だが、通気性に欠けるところが減点ポイントである。それさえ、できていれば完璧だったのだが。
「結構、動きやすくて快適ですよ。それに肌触りも気持ちいですし。」
「そうなんですよ、少し特殊な織り方をすることによって、動きやすさと丈夫さを同時に兼ね備えた一級品なんですよ。」
「へえ、、、凄い、ですねぇ、、、」
かなり目を輝かせたリニアさんに戸惑ってしまい、少し引いた返答しかできなかった。リニアさんは大丈夫なのだろうか。
「そうなんですよ。これを着ることによって訓練のし易さは格段に上がり、快適に訓練をこなすことができるようになりました。その結果訓練の質向上と訓練時間の増加この2つを同時に達成することができるようになったのです。」
「へぇ~そうなんですねぇ。」
圧倒され過ぎて返す言葉がこれぐらいしか見つからない。
「さらには、この折り方は動きやすさか様々なところで使われるようになってます。我々の侍従の服などにも使用されて動きの呼応理科にも一役買っています。軍備から仕事へと多種多様なところにまで色々な発展を見せている素材なのです。」
長い演説が終わりを迎えた時に、つい拍手をしてしまった。まあ、それだけリニアさんが戦闘ジャンキーだということが分かった。
とはいえ、織り方でこうも動きやすさが変わるというのか。何とも興味深いものである。どのように織っているのかは知らないがもしこれがもっと低コストでできるようになれば民間の人間にも分け与えることができる。一級品と言っているあたりおそらく手で織っているのだろう。おそらく在庫は限られているははずだ。
さらに、繊維が普通の者ならばそこも改良の余地がたくさん残されているということだ。素人にできるかどうかわからないが、創ってみたい。
先の事を考えるとワクワクが止まらないが、今やるべきことは違っていた。
「じゃあ、リニアさん。その訓練着の性能を試す意味でも、手合わせお願いします。」
「かしこまりました。あなたの全力をすべて受け入れましょう。」