東国の勇者の場合53
「ケンマ殿ーー。」
アルスレッドの呼ぶ声が遠くから聞こえた。
「話がついたんですか?」
「ええ、とりあえずといったところですが、、、」
なんだか含みがあるような言い方である。なにかよくないことでも起こったのだろうか。それとも少し不安になるような言い方をわざとしているのだろうか。
「いったいどのような結果になったのですか。」
「それは、私の口から言うことはかないません。いま、私がお伝えできるのは、今日の訓練はここで終了とさせていただきます。」
「それって、、」
「できる限り、自主練習なども今はなさらないでください。お願いします。」
アルスレッドは深々と頭を下げ、立ち去って行った。
アルスレッドの態度はかなり慌てていた。一体どんなことが国王との間で決められたのだろうか。それを知る機会はもう少し先の事になりそうだし、今できることをやっていこう。
とは、言っても魔法の自主練は禁止されてしまった。まぁ、バレずにできないこともないが、後々面倒なことになりそうだ。とりあえずは指示に従っておこう。
あとは、単純にできそうなことというと、戦闘訓練か図書室に行って古文書あさりといったところだろうか。そのぐらいしかおもいつかない。とりあえず、リニアさんの助けが必要になることは間違いないだろう。まずはリニアさんを探すところからだ。
リニアさんの姿を求めて、城の中を歩き回ってみた。だが広すぎてどこにリニアさんがいるのか見当もつかない。祖霊大前提として、自分はリニアさんがどういった場所に普段いるのか知らない。
ここ数日リニアさんがついてきてくれていたおかげで、距離が近くなり、ある程度リニアさんの事を解ったと錯覚していたが、自分と一緒にいないときの行動はまるで知らない。リニアさんの事を何もわかっていないのだと痛感した。
これだけ広い城だ、むやみやたらに探すだけではそれこそ一日中かかってしまう。かと言って、どこか辺りを付けて探すすべを自分はいま、持っていない。
詰んでいる。
おとなしく待っているのが一番の吉だろう。だがそれではつまらない。とりあえず、観察のためにいろいろ歩き回ってみよう。まぁ、敷地内から出なければ怒られることはないだろう。この時間の行動については制限されていない。
それに前回、周った時に見られなかったものもたくさんある。そういったものも改めてたくさん見ていきたい、そんな感情がわきでていた。
とりあえず手あり次第に城内の扉を開けてゆこう。何かが起こるかもしれない。図書室は見せてもらったから、ここの使用人が使う仕事部屋や、衣装室や武器庫なんかを見てみてみたい。
そう思って開けた部屋は、女性の使用人の個室で、今まさに着替えている最中だった。
とりあえず、3秒で土下座した。