東国の勇者の場合49
「ありがとうございます」
アルスレッドのその言葉共に訓練が再開した。
始まってみるとさっきまでのことが嘘かのように順調に進んでいった。
自分の身体の中を流れる魔力をいとも簡単に感じることができる。さっきのアルスレッドから流し込まれたものとは違って不快感は一切無かった。それどころか心地よくさえ感じるほどだ。
「さすがです。この一瞬で魔力を感じ取るのも慣れて来ましたね。」
確かにさっきまでと比べれば雲泥の差である。これでなんとか勇者の面目は保たれただろうか。
「それもアルスレッドさんのおかげです。」
「ありがとうございます。ですが、ケンマ氏の成長速度も目を見張るものがあります。やはり、勇者というものは途轍もない才能を秘めているのでしょうね。」
「あ、ありがとうございます、、、」
さっきまでの、対応と打って変わって異様なまでの誉め言葉に少しだけ違和感と嫌悪感を感じた。
「それでは次の段階へ行きましょう。」
そう言うとアルスレッドは、後ろを向いた。
「私の背中に両手を押し当ててみてください。」
「は、はい、、、」
少し困惑をしながら、押し当ててみると何か魔力のようなものを感じる。とは言ってもさっきみたいな不快感は全くない。
「先ほどと違う魔力の感触が感じられたと思います。」
「はい、なんか暖かいような感覚です。」
「それは、私が、あなたの身体の中に魔力を流そうとしていないからです。」
「ながそうとしていない?」
「ええ、私の身体の中に魔力をとどめて、その中で魔力を循環させているだけなので先ほどの流し込むのとは違って不快感はないのです。」
なるほど、さっきは魔力が自分の身体の中に流していたから攻撃をしたのと同じことになったが今回は体に中で滞留しているだけなので攻撃には当てはまらないということか。
腕の筋肉に力を込めて、そのままの状態でいるのか、実際に殴るのかの違いだろう。
だが、
「こんな方法があるなら、最初からこっちでやってほしかったのですが、、、」
「申し訳ありませんが、それはできません。」
「どうしてですか?」
感じ取るのが目的ならこれでいいと思うが、、、、
「今私の身体の中の魔力を感じることができるのは、先ほど魔力を流し込み魔力がどのような感覚かを体感したからなのです。」
静かに語るその口調は妙な納得感を生じさせる。
「つまりは魔力といったものがどういったものなのか感覚的に掴めていないと他人の体内の魔力は感じ取れないということでしょうか?」
「概ねその通りです。魔法の基礎は魔力を感じ取り操る、それが全てですから。」
心の中でにやつきが止まらない。魔力の感覚と同時に魔法の奥深さに触れた気がした。