東国の勇者の場合42
とりあえずウィリアムの妹との結婚は、断ることができた。彼女も一族の教えで自分と結婚することに喜びを感じていると言っていたが、まともでない人間が勇者として選出されていたらどうしていたのだろうか。
まぁ、自分も存外まともとは言い難い性格であるが、最低限の倫理観は持ち合わせているつもりだ。そんな人間が、断っているのだから少しは勇者信者から、目を覚ましてほしい。
結婚に関しては向こうの希望もあって、保留という所に留めてある。こう言った繋がりを持って置くのはこの世界で損にはならないだろう。貴族との結婚は、使えるタイミングが来たら、使えば良いだろう。そんな考えを巡らせながら、コンプトン領を後にした。
3人と会ったあとは精神が疲れ果ててしまって、次に誰かに合う余裕もなかった。日も暮れ始めていたところだったので、今日は一旦王宮に戻ることにした。
戻ったその瞬間に倒れ込むようにベッドに横たわった。
そのまま自室の、ベッドで考える。
一体何だったのだろうか。3人の貴族に会ってはみたものの、三者三葉で、どれもが個性の強かった面々である。この世界にきて一番疲れたかもしれない。こちらの心を見透かそうといろいろ仕掛けてくる表面上は聖人の者。頭は切れるが傍若無人で他人のことなど考えない、超が付くほどの我儘人間。そして、異常とも呼べるほどの勇者への妄信を続ける者。勇者への妄信のきっかけはいくら考えても理解ができない。
仮説のなかで一番有力なのが、曾祖父のただののろけだと思う。
それにしても、これからどんな人物が貴族として待ち受けているのか考えるだけで目がくらくらしてくる。本当にいろんな方法で精神と情緒をかき乱してくる人たちだった。これがあと20人もつづく。そんな憂鬱なことを考えているといつの間にか朝を迎えていた。
つぎの日になり、味気ない高級な朝食に手を付けて身支度を済ませると、残りの貴族たちに会いに行くことになった。
残りの貴族たちは会ってみると普通のひと達だった。というよりも勇者に興味がないように思える。そんなこともあってか貴族たちとの謁見はサクサクと終ってゆく。本当に勇者なんてどうでもいいといったようなそんな態度だった。それに、自分はみておらず、自分の後ろの国王を見ているかのようなそんな態度を受ける。肩透かしもいいところである。
残された猶予はあと10日程となった。