東国の勇者の場合39
次に会った貴族はまた違った個性を爆発させていた。
「これはこれは勇者様、お初にお目にかかります。私はこの国で男爵の爵位を賜っております、ウィリアム・コンプトンともうします。以後、お見知りおきを。」
この挨拶を跪き、深々と頭を下げながら言われてしまった。
なにこれ?
とりあえず、最大の敬意を表わしていることは伝わってきたが、ここまで露骨というか盛大に表現されると虫唾が走る。こんなに感謝されることなんか大嫌いだし、できることならば勇者として祀り上げられることすら本当は御免蒙りたい。
今敬意を示してくれている人自体は、現領主の中では最年少らしい。立て続けの親の不幸により、普通よりも早い段階で就任したということだ。だが、このひともかなり優秀なようで、リニアさんから話を聞く限りは眉目秀麗、才色兼備、文武両道、秀外恵中、緯武経文ここいら辺の四字熟語が全てしっくりくるような人である。
だが会ってみて思ったのは絶対に仲良くはなりたくない、ということだった。出会って3秒でわかる暑苦しさとポジティブさ、しかも純粋で真っ直ぐな眼でこちらを見つめてくる。さらには勇者という肩書の崇拝者である。
あまりにも異質すぎるので周りを見てみると使用人も全てが跪いてこちらへと頭を垂れている。どうやら、この場所ではこれが普通なようだ。リニアさんにも助けを求めようと見てみるが、笑顔で返された。
えっ、まじっすか!?
とりあえず分かったことは、面倒な相手がまた1人別のベクトルで現れたということである。とりあえず挨拶くらいはしておくか。
「こちらこそ、初めまして。勇者としてこの国に召喚されたケンマ・アズマネと申します。よろしくお願いします。」
「おお、これは名乗っていただけるとは。不肖ウィリアム有り難き幸せにございます。男爵という貴族の中では一番引く身分ではありますが、誠心誠意、全身全霊で勇者様のお役に立てるよう精進してまいります。」
また頭を深々と下げた。
うわぁーーめんでぇーー。
なぜこのひとはここまで勇者に対して盲目になれるのだろうか。ハキハキと話すその姿からは嘘やおべんちゃらの様なものは感じることができなかった。素直に聞いてみてもいいかもしれない。
「失礼になるかもしれませんがウィリアム卿、どうしてそのように勇者と人物に対して妄信的になれるのでしょうか。」
「妄信的ですか?」
少し首を傾げたように見える。
「はい、少なくとも自分にはそのようにお見受けします。」
「んー、そうですか、、、」
悩み始めてしまった。なんだか聞かない方がよかっただろうか。
「私は正直、妄信的であるという自覚はないですが、そのように見えてしまうとするならば、我が家の教えがあるからでしょう。」
「教えですか」
「はい、私は父から小さなころからもし、勇者様が現れる様なことがあればコンプトン家の全てを使って手助けをしてほしい、いえ、するべきであると、そのように我々は教えられてきました。」
「全てですか、、、」
「はい、全てです。」
その全てという一言に何か重みのようなものを感じた。
「なぜ、そのように、」
「それは、我が一族にかかわるお話になります。」
眼差しが真剣なものへと変わる。
「長くなりますがきいていていただけますでしょうか。」