東国の勇者の場合37
昼食を兼ねて、市場の出店の中の屋台へ行き、軽食をいくつか見繕ってここへ来た時の船に乗り込んだ。
「いかがでした、モーリス卿に会って見た感想は。」
「そうですねぇ、、、、」
色々考えて見る。なんだか掴みどころのない人間の様に感じた。一見厳しくない強かな様にも見えるが傍若無人にも捉えかねない言動の人間でもある。
ひと言で当たり障り無くまとめるとするならば、
「優しそうでいい人でしたよ。」
褒めるところがないときに使う褒め言葉第一位を使っておこう。
「いい人ですか。ケンマ様がかなりお優しということにしておきましょう。」
随分含みのある言い方だ。
やはり、リニアさんはモーリス卿と何かあったのだろう。いや、逆に何もなかったのか。
「そういえば、リニアさんってモーリス卿とファミリーネームが一緒ですよね。」
こんな風に揺さぶってみたらどうなるだろう。
「人が悪いですね、何もしゃべらずに、何も気にされていないよう振舞うなんて。」
ん?別にそういった意図があって振舞ったわけではなく、簡単に想像できることだったし、聞くのが面倒になってしまうくらいどうでもよかったからだったんだが、、、、、、まぁ、いいか。
「おそらくお気づきの通り、モーリス卿は私の父にあたります。」
「お父様だったんですね!だったらどうしてあのような態度をモーリス卿はとられたのですか?」
これは驚いた遠戚位に考えていたが、まさか父親であるなんて。正直娘に会った時に見せる対応としてはあまりにも薄すぎる。というか、興味がなさすぎると考えるのが正解かもしれない。
普通娘に会ったら会話にも出すだろうし、あまりよくない仲だったとしても何かしらのリアクションは出てくるはずだろうに、それが一切なかった。まるで、知り合いの名前を知っている使用人への対応。つまり、勇者の使用人への対応に映った。
貴族というものは元来こういったものだろうか。
「そうですね、簡単な話です。私はモーリス卿の愛人の末妹ですから、それに母はもともと使用人で、間違った関係を持って生まれた子供なのです。」
『間違った関係を持って生まれた子供』
そこから読み取れる言葉の真意はいろいろある。だが、先ほどの意味深なリニアさんの態度や、モーリス卿のリニアさんへの態度を見るに否が応でも一つの意味に捉えられてしまう。
正直、モーリス卿は腹の底では何を考えているかわからない人物ではあったが、領民からの慕われ具合と、街の活気の良さからそれなりに信頼を持たれてよい政治を行っているものだと思っていた。さらには、今のこの領地で一番の良識と器の大きさを持っていると思っていた。正直、考えを改めるどころの騒ぎではない、今後の付き合い方が変わってくるそれ以上の事態にもなるだろう。
「そのことで私は正式なアリストロ家の一員として認められていないのです。」
まぁ、当然の結果だろうプライドの高そうだったモーリス卿がそんな子供を自分と同じ身分に添えたくないと思うだろう。厄介だ。
「ですから、モーリス卿にあったことは数回しかありません。特別に12歳までは屋敷の中で育てていただいたのですが、居心地が悪く女でありながら兵士に志願したというわけです。」
なるほど、そんな経緯があったのか。
「なんか、すいません。」
つい口から出てしまった。
「あまり気になさらないでください。おかげで、面倒な跡目争いから抜けることができて大助かりなのですから、いいこともあるんですよ。」
ああ、このひとは本当に優しい人だ。