東国の勇者の場合35
自分の立場と女神からの召喚という恩恵をどれだけ受けていたのかを理解してこれからここへ来た本当の目的を遂行するとしよう。
「リニアさん。では、謁見も終わったことですし、この街を見て回ってもいいですか。」
「ん~そうですねぇ。確かに別に領主の方々へのあいさつ回りも特段急いでいるわけではありませんし、ケンマ様の猶予期間の目的でもありましたしね。」
「それじゃあ」
「ええ、行きましょうか。」
望みが叶うことが決まった。
とりあえず屋敷の庭が広すぎるため、屋敷の入り口の所まで馬車で送ってもらいそこからは歩くことにした。屋敷を出ればすぐに街が広がるため、そこから歩いて探索を始めた。
来るときに馬車の中から見た通りとても活気があふれていてにぎやかな街並みになっている。出店なんかもちらほら並んでいて見たことのない果物やアクセサリー、簡単な日用品なんかも売っていた。
「とても楽しそうでいらっしゃいますね。」
「当り前じゃないですか。これだけたくさんの見たことないものが並んでいるんですよ。正直ここに売っている物を全て買い占めたいくらいです。」
お世辞でも誇張でもなく本当にそう思っている。自分には見たこともないような品々で食べ物はどんな味がするのか、日用品はどんな使い方をするのか、はたまたアクセサリーはどんな技術で作られて、どんな宝石が埋め込まれているのか自分にとっては全てが興味の対象だった。
「それでしたら、お1つでしたら私が買って差し上げますのでよろしければいかがですか。」
何という吉報だろうか。この中か1つだけでも手に入るというのだから、そんな願ったり叶ったりなこと断る理由がない。
「ぜひお願いいたします!!」
「はい。」
そうと決まれば、くまなく見て回るしかない。
しかし、実際見てみると結構迷うものだ。こういったタイミングで買うのだ。食べ物だとこれからも食べる機会がたくさんあるし、すぐなくなってしまう。日用品だと持って帰るのも心配だし、これから何か言えばもらえるものもたくさんあるだろう。だとするとアクセサリーとなるか。
いや、まて。アクセサリーに使われている金属や宝石について興味はあるがアクセサリー自体には興味がない。買ってから着け続けることは自分には難しそうだった。
1つだけというのが決めることに対して決断を鈍らせる要因になっていっている。街を歩きながら考えてかなり歩き回って思考を巡らせていた。
そんな中ふと、一つの指輪が目に入った。なんだか不思議なオーラが出ているような感覚のするもだった。なぜそんなものになっているのかは解らないがその指輪に自分が引き込まれているのは解る。
指輪自体はごく自然なシルバーアクセサリーである。日本にもよく見る紐で編んだミサンガかのようなデザインである。しかし違うところもあり真ん中に赤い宝石のようなものが埋め込まれている。この宝石がまるで瞳のようにこちらを覗いている。
「リニアさん、これにします。」
とりあえず、即決した。