東国の勇者の場合29
領主の館に着くまで領主のひとが用意してくれた馬車に乗って向かうことにした。
馬車のある所へ行く道中少し街を見てみたが、活気があふれて全員が明るい顔をしている。さらにはホームレスのような貧困層の姿が現れていない。とても良い街なのだろう。
しばらく歩くと街中に雰囲気に似合わない馬車が現れた。思ったほど豪華には装飾がない。さらには全体が黒で塗られていてシックな味わいと細かな金色の装飾のおかげで煌びやかさを持っている。さらには、すごくよく磨かれている。素人目に見ても凄まじい手入れがされているのがわかる。
馬車を引く馬もとてもきれいに手入れされているのがわかる。正直何の変哲もない馬だが発達した筋肉と徹底的なまでに手入れされた美しい毛並みで、一目見て途方もないお金と手間がかかっているとわかる。
まさに強い主張ではないが相手に対してのプライドが垣間見えるそんな馬車である。
乗ってみると中の椅子も華美な装飾が全くなく地味と言ってしまえばそれまでだが赤一色の座席には全く言っていいほど埃すら落ちていない。さらに記事の質感はカシミヤのセーターよりも柔らく気持ち良い肌触りである。
自分の予想が間違ってなければ、他人にはいい顔を見せたく、何でもするが基本的にプライドが高く、他人を見下している人間と見える。リニアさんが一番に連れてきたのも納得である。
「ところでここの領主はどんなひとなんですか。」
「ここの領主は公爵の位を持たれている方で、優しい領主として領民の方からはとても慕われているんですよ。」
「優しい、領主、ですか、、、」
「ええ、優しい方ではあると思いますよ。領主用の税が、ほかの領地と比べて安いのがそんな風に言われている一番大きな要因ですね。」
「領主用の税ですか?」
「ええ、我が国では、国王陛下へと納める税と領主へと納める税があります。国王陛下への税は一律決まっていて変更ができないのですが、領主への税は領主自ら決めることができます。」
なるほど、日本でいうところの国税と地方税みたいなものか。まあ、両方とも必要だし、そんな風に分けた方が都合がいいのだろう。
しかし、優しいという感想は今自分が思った人間性では感じられないものだった。だが、街を見渡してみるとそうでもないそんな気がした。なんだか不思議な光景である。