東国の勇者の場合27
多種多様な船が航行する光景をずっと食い入るように見ていた。自分の事を気遣ってか、その間リニアさんが声をかけてくることはなかった。
様々というのも表現はかなり幅広く形や大きさ屋根などの設備のほかにも違いを見つけることができた。船自体の動力である。
ぱっと見の外見では何で動いているのかわからないものもあれば、煙突が取り付けられて蒸気で動いていると予想ができるもの、人が手でこいでいるもの、果てにはおそらくこの世界の生物であろう生き物が引いているものがあった。
なんだか下半身はウミウシみたいな見た目をしているが上半身や顔は馬でしっかりと鬣も付いている。かなり奇怪な生物である。
「リニアさん、あの船を曳いているのは何ですか?」
「あれは、ウンバという動物です。」
「ウンバですか、、、」
「はいさようにございます。彼らは、水陸両用で動くことができ、尚且つ重い荷物でも運ぶことができる優れものです。」
つまりは水陸両用に進化した馬みたいなものか。
「なるほど、水運で生活し、陸と海を行ったり来たりするこの国には欠かせない生き物ですね。」
「はい、ウンバがいなくなればこの国の交通網は8割が壊滅すると言われています。」
なるほどそんなにか。確かに重い荷物となれば人力だけで運ぶのは大変そうだ。
しかし、それだけでは少し疑問も残る。外見に動力の特徴が現れていないものはおそらく魔法の力を使って動かしているのだろう。それは冷静に考えてみると不思議なことである。自分は魔法を移動につかっているのをこの船が動くとき初めて見たのである。そんな技術があるのならばもっと多用すればよいだろうに。それなら動物を使わなくても、交通網は維持できるはずだ。
だが、今目に映っている光景とこれまで王宮の中で見てきたものはその思考を否定している。魔法を使っていると考えられる船は少ないし、王宮の中でも移動に魔法を使っている光景を見たことがない。
「ですけど、移動に魔法が使えるなら、船もたくさん動かすことができるんじゃないですか?それにもっと王宮の中で使ったらかなり生活が楽になると思いますし。」
「確かに、それができたら我々の暮らしはもっと楽になると思います。ですが、それはかなり難しいと思います。」
「難しい、ですか、、それなら、この船はどうして魔法を使って動かせているんですか。」
「それは、この船を動かす動力は万人が扱える物ではないからです。」
「万人がですか。」
「はい、魔法というものは魔力をもとに生成されます。」
「魔力、、、」
無意識に開いた自分の手を眺めてしまった。
「人間自身が本来持っている魔力を何らかの形に生成したり、物を動かしたりします。」
「なるほど、今自分たちが乗っている船は、魔力を使って動かしているということですね。」
「はい、その通りでございます。しかし、魔力の総量は人によって違います。人によってはこの船を1日中動かすことの出来る者もいれば、1分動かすのもやっとな者もいます。」
確かにそうだろう。ゲームやなんかでのMPの設定みたいなものだろう。俺たちの世界だって、一日動ける体力があるかないかも人によって変わってくる。そんな風に変換できれば理解はしやすい。
「ですから、全ての人間が常時魔力を流しながら移動し続ける事ができるわけではありません。人によっては魔法で船を引き続けるという事ができないのです。」
要は魔力が人間の出す化石燃料みたいなものと考えればいいだろう。最初動かすことができたとしてもそれが尽きれば止まってしまう。結構制限の多い世界なのだと痛感させられた。
「だった、この船はどうやって動いているのですか。」
「それは、、、」
リニアさんが何か言いかけた時ごとという音を立てて船が停まった。窓から外を見てみると港のようなところに停まっている。最初の町の船着き場に着いたらしい。
リニアさんは少し微笑んで、
「どうやら到着したようです。お話の続きは後程にしましょう。」