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第一章 東国の勇者の場合①

 目を覚ますとそこは見知らぬ部屋であった。朝日が差し少し眩しい。

 広さとしては30畳位だろうか、無駄に広い部屋に最低限の家具が配置されている。少し大きめのチェストに花瓶などを置く台座だろうか?まだ何も置かれてなく、少し侘しさの様なものが漂っている。窓はとても大きくそれに合わせて天井もかなり高く設定されている。カーテンは白い無地のレースの物だけが付いている。その開いているカーテンが眩しさの犯人だった。

 そして周りを見渡しているととても心地よい肌感触に気が付く。シルクのシーツなのだろう、触っているだけで高級なものだと感じてしまう。そしてそのシーツの乗っているベッドは木製できている。

 チェストや台座もそうだが、所々のディティールがとても細かい。

 全体的にアニメに出てくるような中世ヨーロッパの雰囲気に近いが妙な違和感が残る。その違和感の正体はすぐに判明した。

「なるほど、基本のテイストは和なのか」

謎が解明した故の恍惚の表情なのか、はたまた部屋のアンバランスさに失笑してしまったのか思わず小さく笑ってしまった。

 ベッドから出て少し探索をしてみる。

 部屋の内部の壁には装飾らしい装飾の一切がされておらず簡素な造りになっている。家具のように細かいディティールで模様や絵が描かれているわけでもない。それに基本が和であると気づいたからだろうか、部屋全体を見渡す日本の古城がダブって見えてくる。もう少し壁に気を使って何かしら絵柄なんかも描いていれば違和感も払拭できただろうに。

というかこれは漆喰がそのまま剝き出しの状態なのではなかろうか。ここまでくると本当に日本の建築様式と見紛うほどだ。だがしかし造りや家具が全部西洋式である。『西洋風の物を参考に日本の技術で作り上げました』みたいなことなのだろう。だからこその違和感なのだ。

 何というか明治初期に日本に来た外国人の気持ちがわかった気がした。


 いきなり扉が開いた。

 個人的にはこの建て方なら襖のほうがあっていると思うし好みである。

「お目覚めになられたのですね、勇者様」


『勇者様』


その言葉に疑問符が浮び周りを見渡してみることにした。自分と声の主であるおそらくメイドであろう女性しか見当たらない。

ということは勇者様というのは自分ということなのだろう。

「私はここでお世話係をしております『リニア』ともうします。勇者様の世界ではメイドとも表現できますね。しかしながらまだこの環境に戸惑われているようでございますね。」

美しい無表情で言い放った言葉には、トゲは無いが同時に温かみも全くない。まるでこちらを品定めしているかのようだ。

「戸惑うと言うか、あまりに唐突なことが起こりすぎて何が何だかよく分かってないんですよね。」

それに記憶も混濁している。このメイドから出来る限りの情報を聞き出せないものだろうか。正直、この世界は文化も価値観も日本とは全く違うと考えた方がいい。それなら、これから取るどんな言動でも命を捨てる可能性がある。回避するためにも今はとにかく情報が必要だ。

「そう言うの『戸惑う』と言うのですよ。しかし、戸惑うにしてはあまりにも冷静ですね。大抵の方々は、状況を理解するのに精一杯で会話を行おうとすらしませんから。」

このメイドよく人を観ている。ずっと人間を観ていたのだろう。些細なところから心情を読まれることはないようある程度は気をつけなければならない。たとえ止まれたとて最低限にしなければ。

「そうですか、正直内心ビクビクなんですよねぇ。」

そう、これでいい。このまま出来うる限りの穏やかな口調で相手の心情を逆撫でする事なく、取り止めのない会話から始めよう。

その瞬間、うっすらと微笑みがメイドの顔に貼り付けられた。

「そんなに強い警戒心では、誰もよって吐きませんよ。少しは人の言うことを信用しようとする心を持った方が良い事もあるものです。」

「ですが、出会って1分も経ってないあなたをどう信用すれば。」

「いいえ、信用して欲しいのではなく、警戒心を解いてほしいのです。信用していただくのはそれからでも十分でございます。」

とても優しいがまるで温度のない口調である。警戒心を解けとは一体どの口が言っているのか、はなはだ疑問が残る。だが言っている事も一理ある。今この瞬間においては頼れるのはこのメイドしかいないのだ。

「わかりました。じゃあ、この世界と僕が勇者であるその理由を教えて下さい。」

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