#5.5 虚無 sideリア
お兄様……ごめんなさい……
私は、お兄様の言うことを聞けませんでした。
「……リア。今度、テオが来るそうだな」
テオが来る数日前、義兄が言った。
これは、夢……?
リビングで、義兄と私が向かい合っている。
「はい。今から楽しみです」
「テオのことだが……おかしな素振りを見せたら、すぐ俺に言うんだ」
「おかしな素振り?」
「その……。おまえに危害を加えるようなことがあれば……」
今思えば、義兄はいつもと少し様子が違った気がする。
「テオが……?」
私は、それを聞いてキョトンと目を開いた。
「テオがそんなことするはずありません」
そう、私はテオを小さい頃から可愛がってきて、テオのことをよく知っている。
家族として、愛情を持って接してきた。
「……母さんが、亡くなった時のことを覚えているか?」
「はい。たしか、事故だと……」
テオと出かけた時に、階段から落ちて亡くなったと聞いている。
「テオが、関与していると言ったら?」
義兄がまさかの発言をし、私は絶句した。
関与している、それは義母を……
考えただけで恐ろしかった。
「うそです」
私は迷わず否定した。
テオがそんなことをするなど、信じられなかった。
「うそではない。証拠がなかったから、事故として処理をされただけだ」
「うそですっ! お兄様は、私のことが憎いからといって、テオとの仲まで引き裂こうとしているのですかっ!?」
「……!」
そうだ、義兄は私を憎んでいる。だからテオと仲良くするのが気に入らないのだ。
私を蔑むためにテオを持ち出してくるなんて、到底許せることではなかった。
義兄は、一瞬険しい顔をしたが、諦めたのかそれ以上何も言ってこなかった。
だけど、事件は起こってしまった。
もう、何がなんだかわからなかった。
なぜ、テオがあのような行為をしたのか、私には理解できなかった。
お兄様……。
私は……テオを信じたかったんです……。
信じて……いたんです……。
ごめんなさい、お兄様……。
私は、お兄様を責められません……。
目を覚ますと、知らない天井があった。
「……」
なにも、考えられない……。
なにも、考えたくない……。
なみだも、出ない……。
からっぽだ。
誰か。
誰か。
誰か……。