#21-2 罪悪感
ここにいる全員が。
彼のこんな表情を見るのは初めてだった。
どんな時も喜色を見せていたテオが初めて見せた本心に、誰もが言葉を失った。
ポポロムは愕然とした。
(僕は、間違えた……⁉︎)
テオの心の闇を、真実をよく知らないまま治療してしまった。
(これではダメだ……! テオさんは、ますます壊れてしまう……!)
そう思っていた時、ポポロムの前に立ったのはリアだった。
「テオ!」
リアは、テオを刺激しないよう懸命に笑顔を作った。
「テオ、一緒に帰ろう……? 私は、テオを信じてるよ……」
「姉さんさぁ……。『信じる』って、俺のなにを信じてるの?」
「え……?」
そんなリアの優しささえも突き放すように、テオはすでに笑顔を作れないでいた。
「テオは……明るくて……。いい子で……誰とでも友だちになれて……だから……」
(きっと、良く、なって……)
リアは尚もテオの明るさを信じたかった。
自分が人と違う事に対して卑屈にならなかったのは、両親や義兄の優しさと、テオが笑顔でいてくれたからだと信じて止まなかった。
しかしテオは、その盲目的なリアの考えを受け入れる事はできなかった。
「それってさぁ……。姉さんの理想の俺でしょ?」
「え……?」
「姉さんは、今まで俺の何を見てきたの? 兄さんの、何を見てきたの?」
問われてリアは、何も答える事ができなかった。
「……まあ、いいや。これについて突き詰めるつもりはないし」
テオが急に冷静になった。
そして、いつものような笑顔に戻っていた。
「いいよ。俺、姉さんのお望み通り、『普通』の、理想通りの義弟になってあげる」
「テオ……?」
リアは、テオが少しずつ後退りしている事に気づいていなかった。
「……いけない、リアさん! テオさんに、いきなり『普通』を求めてはいけません……!」
「えっ?」
「リアさん、あなたにも覚えがあるはず。人が我に返った時、まず抱く感情は羞恥心と……罪悪感です!」
それがどういう意味なのか、リアにもわかってしまった。
言っている間にもテオは崖の縁に立ち、海に背を向けている。
「テオッ!!」
もう間に会わない、誰もがそう思った。
しかし一早く反応したのは、アルフレッドだった。
アルフレッドは、考えるよりも先に走り出していた。
リアのためにもテオを死なせてはならない。そして、今度こそテオと向き合うと決めた自分のためにも。
絶望の淵、既のところでテオの手を掴み二人はその場に倒れ込んだ。
「なんで……」
仰向けになったまま、テオは掠れた声を出した。
「なんでなんだよっっ!! なんで助けるんだよ……なんで兄さんが助けるんだよッッ!!!!」
駄々をこねるように泣き喚くテオの頬を、アルフレッドは容赦なく殴った。
本当は今までの恨みも込めてもっと殴ってやりたいところだ。
だが、アルフレッドには体の痛みよりも胸に刻みつけてやりたい想いがあった。
「おまえは……。おまえは、自分だけ逃げて一生リアに罪悪感を植え付けるつもりか!!」
胸倉を掴み、鼻先がついてしまうかと思う程の距離で、腹の底から叫んだ。
ここでテオが命を落としてしまえば、リアは自分を責め続けるだろう。
たとえそれが自分を傷つけた相手だったとしても。
理解し難い感情だった。
しかしそれでも、アルフレッドはリアの気持ちを第一に考えていた。
「俺は許さない……一生許さない!! 俺も! おまえも! 一生かけてリアに償うんだ!!」
「テオ……」
あの事件以来、リアがテオの傍に立つのは初めてだった。
病院で見た時とは違うテオの表情。
リアは、そんな微妙な違いを機敏に感じ取っていた。
「姉さん……」
「辛いなら吐き出して……! 私は、兄弟3人で支え合って生きていきたい……!」
リアは力一杯、義兄と義弟に訴え抱きついた。
「ここはね、俺と母さんが来るはずだった場所」
落ち着きを取り戻したテオは、海を見ながらぽつりぽつりと話し始めた。
「え……?」
「当時は知らなかったけど──ここ、自殺の名所って呼ばれてるんだってね」
こんなの笑うしかないじゃん、とでも言いたげにテオは寂しそうな笑顔になった。
それを聞いたリアは、きゅうっと胸が締め付けれられた。
ポポロムとカルステン、ディルクも離れた場所でそれを黙って聞いていた。
「ああ、母さんは、本当に俺と心中したかったんだなぁ……って」
「どういう、ことだ……?」
傍で聞いていたアルフレッドが、眉を顰めた。




