#20-2 再始動 sideリア
◇
家に戻ってきてから数日後、私は大学へ再び通う事になった。
あの事件の後、お兄様が休学届を出してくれていたらしい。
数ヶ月ぶりのキャンパス。
ドキドキしながら学舎へ向かうと、ジェシーとモニカが出迎えてくれた。
「リアーっ」
「ジェシー! モニカ!」
「心配してたのよー! ずっと大学休んでたからー!」
「ごめんね、心配かけて。今日からまた、よろしくね」
三人で輪になって抱き締め合った。
「あの、リア……。訊いていいかどうかわからないけど……」
「テオドール君の事……」
二人は、あの事件をネットニュースで知ったらしい。
そのすぐ後に、刑事さんが聞き込みに大学まで来たそうだ。
どこまで知られているのだろうかと、心臓が大きく跳ね上がった。
私の名前は、公表されていないはず……。
「……テオはね、今入院してるの」
今の事実だけを伝えた。
「そうなんだ……」
「きっと、良くなって退院できるって、私は信じてる」
「そう……そうだよね……!」
深く詮索しない事に、安堵のため息を漏らす。
彼女たちが友人である事を嬉しく思った。
「じゃあ、今日こそリアの快気祝いに……」
「パンケーキ!」
「えっと……」
少し離れていたお兄様に向かって、お願いするように目を向ける。
「お兄様……?」
『行ってもいいですよね?』と、心で訴えた。
「ああ、行っておいで」
あの時とは違う穏やかな表情。
きっとこの違いは、私にしかわからない。
「きゃあー、やったー!」
「何ヶ月越しよ、もうー!」
「君たち。リアをよろしく頼むよ」
「……ハイッ!」
彼女たちの心が、またキュンと鳴った気がする。
お兄様のその笑顔も、きっと二人にはあの時と変わらないままで映っているだろう。
それでいいのだ。
世の中には、知らなくてもいい事、知らない方がいい事がある。
彼女たちには、いつまでも“イケメンの義兄”だと思っていてもらいたい。
誰の監視の目もなく、友人たちと出かけられる日が来るなんて。
ああ、でもお兄様はやっぱり心配性で、GPSは靴に仕込まれたままなのだけれど。
でも必要以上に干渉しない事と、本当に差別緩和が実現したら外してもらう約束はしたので、その辺りは一歩前進したと思える。
「お待たせしましたー」
目の前に置かれた三段重ねのパンケーキを見て、私は心を踊らせた。
トッピングに色とりどりのフルーツと生クリーム。皿の上は煌びやかな別世界だ。
一口サイズに切り、重ねたままの形をフォークに突き刺す。
大口を開けて生クリームと共に頬張る。
いつもだったら絶対にしない食べ方だけど、今日は特別!
「お、いい食いっぷり」
とジェシーがスマホを向けて写真を撮った。
「んんー!? ひょっほぉ!」
頬張ったままでうまく喋れなかった。
飲み込んでから写真を見ると、膨れた頬。見事に口の周りに生クリームがついていた。
「ちょっと、消して消して!」
「リアに送ってあげるから、お兄さんに見せてみたら?」
「だ、だめー!」
「ふふ、良かった。リアが元気で」
面白がるジェシーを止める私。
それを見て微笑むモニカ。
ようやく取り戻した平穏な日々を、私は幸せに思う。
お兄様も仕事に集中できるようになり、
叔父様は変わらず自宅でカウンセリングをしていると聞いた。
ポポロム先生も、病院で患者に向き合う日々。
そして時々、テオの様子も見てくれているらしい。
だけど、私たちはまだ知らなかった。
この幸せの裏で──あんな事が起きているとは、想像もしていなかったのだ。
◇
数日後──
プルルル
しんと静まり返る真夜中、ポポロムのスマホの着信音がけたたましく鳴った。
「ん……こんな夜中に……。急患か……?」
急患自体は珍しくない事だったが、ポポロムに電話がかかってくることは稀だった。
人手不足なのだろうかと、寝ぼけ眼でスマホを取る。
「もしもし……」
『先生、すみません! 精神科のテオドールさんが逃亡しました!』
「……えっ!?」




