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一年の歳月。
たった一年で、彼は成し遂げた。魔王を倒したのだ。
かくして跳梁している魔物の力は弱まった。
世界を、救った。
腐りきった政治も、佐藤の求心力の前に改善されていく。
勇者は単に人々の命を救ったのではない。その心を、救ったのだ。
事が終わりしばらくして、佐藤は思った。
この世界のために尽くす人生も良いだろう。
しかし、令和の日本で勉学に励む道も捨てがたい。
またあの通学路を歩きながら、学校へ通いたい。
女神とて分かっていた。
佐藤を、元いた世界へ戻さねばならない。
この世界はもう、十分なほどに救われたのだから。
佐藤は女神に頼み、またもや息を詰めた。
あの時と同じように、地面に倒れ伏す勇者。
勇者は散った。かくしてこの異世界の地で、勇者は伝説となった。
再度転生の儀が行われる中、女神は悩んでいた。
全ては終わったのに、どうも満たされぬ気持ちがあったのだ。
佐藤を応援し、サポートした。世界を救うため、全身全霊で佐藤に協力した。
なのに、何かが違うのだ。この関係は、違うのだ。
女神は、とうとう気付いた。
世界を救いたかった、それは確かな気持ちである。
しかしそれ以上に確かな気持ちが生まれたことを、思い出した。
あの高揚を、あの真剣勝負を、あの、あの、あの――。
女神の瞳に闘志が宿る。
佐藤のファンに甘んじていた自分など、自分ではない。
私は彼の、そして彼は私の、好敵手――。