7
世界の滅亡はすぐそこに迫っている。
一刻の猶予もない、しかし佐藤は死なぬ。真の勇者であったから。
しかし死んでもらわないと転生させられぬ。どうすればいい、どうすれば。
言うまでもなく、女神は己の手で佐藤を殺したかった。
闘争の炎は燃え盛っている。しかしもう、世界が滅ぶ。
滅んでしまっては、女神も女神でいられない。
結局佐藤との闘争は、永遠には続かない――。
女神は佐藤の前に顕現した。
そして、頼んだ。素直に、丁寧に。
「私のいる世界を、どうか救ってください」
「問題ありませんよ、女神さま」
即答。
これが佐藤なのだ。これが我が好敵手なのだ。
己の佐藤像との解釈一致、女神は歓喜する。
しかしここでふと気付く。
結局、転生するためには一度殺さねばならぬ。
……どのように?
「転生するためには、一度死んでいただかねばなりません……」
「問題ありませんよ、女神さま」
佐藤は、息を詰めた。
呼吸を止めて、一秒、二秒、三秒――。時間が過ぎていく、佐藤は、窒息せんとしている。
女神はこの美しい時間を――佐藤と対峙する時間を止めて、永遠にしたかった。
しかし長くは続かない。
佐藤は、あっけなく倒れた。通学路に、散った。
かの賢者、ディオゲネスの死と同様であった。
女神は殺せなかった、佐藤を。
しかし佐藤は殺した、己自身を。
女神の、完全敗北であった。
女神の頬に、一筋の涙が流れる。
敗北による屈辱か、それとも気高き魂を前にした感動か。
答えは明白であった。
転生の儀が、とうとう成る――。