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佐藤のフィジカルに、単純な肉体的ダメージは意味をなさぬことを理解した女神。
なればどうする。女神は新たな殺人手法を考える。
――毒は、どうだろう。
かくして女神は佐藤の弁当に毒を盛った。その名はテトロドトキシン。
青酸カリの毒性を遥かに超える、言うまでもなき有名なフグ毒である。
朗らかなお昼、いつもの楽しいお弁当の時間。
佐藤が床に倒れる音が、教室中に響いた。
「ど、どうしたの佐藤くん」
のたうち回る佐藤。呼吸がおかしい。明らかに麻痺している。
女神はとうとう勝利を確信した。今度こそ、成った。佐藤に、勝った。
同時に去来するある思い。
――佐藤は、本当に死んでしまうのか?
トラックも、旅客機でも駄目だった佐藤が? こんな麻痺程度で?
胸にチクリと刺さる謎の棘。なんなのだこの気持ちは?
自分は佐藤の死を望んでいるのではなかったのか……?
女神の心配は杞憂に終わった。
そう、案の定佐藤は生きていた。
彼の肉体は、すぐに毒への抗体を作り出していた。
「問題ありませんよ、皆さん」
多少の痺れを残しながらも、次の授業の準備。
勉学への志向はとどまることを知らぬ。勇者は肉体も頭脳も優れなければならぬとばかりに。
女神の心は高鳴った。そう、佐藤がこんなもので死ぬはずがない。
我が好敵手のタフさは、こんなものではないのだ、と。
次こそは確実に、そして派手に転生させてくれよう。女神の瞳はいつにもまして輝きだした。