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車両を突っ込ませるのは駄目だと女神は気付く。
では何を突っ込ませれば良いのか? 質量と、速度がなければならぬ。
――旅客機しかあるまい。女神の不敵な笑みが虚空に光る。
かくして女神は突っ込ませた。通学中の佐藤に、飛行機を。
最早トラックの比ではない。一方的な殺戮とも言える暴挙。
巻き起こる大爆発。佐藤の通学路は一瞬にして滅茶苦茶になった。
さらば通学路、さらば佐藤。ようこそ異世界、さよなら魔王。
しかし女神は見た。燃え盛る炎の中に一人の影、いや、三人の影を。
佐藤は生きている。全身大火傷を負いながら。右肩には操縦士、左肩には副操縦士を背負いながら。
「問題ありませんよ、パイロットさんたち」
美が、そこにあった。
圧倒的芸術を前に、女神は言葉を失った。
この完全なる美を生み出した自分を誇りにさえ思ってしまった。
しかしそれは彼女の敗北と同義。己に美などいらぬと思い返し、次の策を練る。
だが策を練りつつも、佐藤の勇姿が頭から離れなかった――。