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女神は悩んでいた。魔王の復活、邪悪の跋扈、腐敗した王政。世界は滅亡の危機に瀕していた。
女神は世界を救うべく働きかけんとした。しかし望むような資質の人間はいなかった。
女神はひらめいた。この世界の人間が駄目なら、他の世界に頼ろうと。
女神はある男に目をつけた。その名も佐藤。現代日本に住む、普通の高校生。
女神は見抜いていた。平凡に見える彼の底しれぬパワー、精神力、度胸に根性、カリスマ性を。
女神は彼を転生させるべく、そして女神が統べる世界を救わんべく、通学中の彼に2tトラックを突っ込ませた。
2tトラックは佐藤を跳ねた。跳ねた上にタイヤですり潰した。転生の儀はなった。
かに思えた。
佐藤は生きていた。
満身創痍――体中の骨が折れ、血反吐を吐いている。しかし彼は立っていた。
トラックの運転手が血相をかえて降りてくる。佐藤は言い放つ。
「問題ありませんよ、運転手さん」
かくして運転手の人生は守られた。
しかし女神の世界は守られていない。
女神は頭を抱える。佐藤はバッグを抱え通学する。体中の骨が折れ、血反吐を吐いても、男は通学を止めなかった。
底しれぬパワー、精神力、度胸に根性、カリスマ性の為せる通学。
かくして女神と佐藤の闘争が始まった。始まってしまったのだった。